王将

☆王将 10/1 高槻松竹セントラル(特集上映人生名画劇場)
★★★★
→実在の棋士阪田三吉坂田三吉だと思っていたが阪田が正しいらしい)の生涯を描いた作品。(但し、後半は現実とは全く違う)三吉を演じたのは阪東妻三郎で監督は日本映画の革命児であった伊藤大輔。これもバンツマの代表作ですな。圧巻なのは三吉の住む貧乏長屋。遠くに通天閣が見えて汽車が通るたびに煙が画面いっぱいに立ち込める。その中でひたすらに将棋板を睨み続ける三吉の姿。まさに狂気である。大阪には極道と言う言葉がある。一般にはヤクザを指す言葉であるが、「将棋極道」という言葉もあるように一つの趣味に身を投じる男の生き様を表す言葉でもある。三吉はまさに「極道」であり、飄々としていながらも仏壇を質に入れ、娘の晴れ着を売り払い、将棋大会に出場する様はまさに狂気の人である。「吹けば飛ぶような将棋の駒に懸けた命を笑わば笑え」の世界であるが、こうした狂気を心意気に感じるのも大阪の文化であり、三吉は関西を代表する棋士に成長していく。そうした三吉の生き様をまざまざと描き出した、このシーンだけでも鳥肌物である。バンツマは三吉を愛嬌たっぷりに演じて愛すべき人間に描いている。鼻声の少しのったりとした大阪弁が微笑ましい。本作ではそうした三吉と彼を支え続けた妻の小春を中心に、見事にゴツゴツとぶつかり合うような人間ドラマを描ききっている。小春を演じた水戸光子も素晴らしい。将棋極道の三吉に絶望して自殺まで考えるが、旦那に好きな将棋を好きなだけ指させてやろうと決意する。「そんなに好きならお指しやす。その代わり、日本一に将棋指しになりなはれ」と言い切る口調には女の強さが見えていて、キリリとした口元が凛々しい。三吉とは対照的な落ち着き払った天才、関根名人を滝沢修が淡々と演じているのもいい。1952年に続編も企画されていますが、バンツマの体調はこの時、相当に悪かったようで中止されています。翌年、52歳で死去。時代劇だけでなく、ホームドラマなどでも味のある演技を見せており、その演技は円熟しつつあり、その中でのあまりにも早すぎる死。彼が演じる晩年の三吉、おそらく織田作之助の「驟雨」が原作だろうが、そのドラスティックな晩年を彼をどう演じたか、それもすごく見てみたかったです。

熱眼熱手の人―私説・映画監督伊藤大輔の青春

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阪東妻三郎傑作選 DVD-BOX

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孤高の棋士 坂田三吉伝 (集英社文庫)

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夫婦善哉 (講談社文芸文庫)

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・・阪田三吉について触れた「可能性の文学」収録

聴雨・蛍―織田作之助短篇集 (ちくま文庫)

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・・阪田三吉を主人公にした「驟雨」収録

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