メゾン・ド・ヒミコ

メゾン・ド・ヒミコ 10/20 MOVIX京都シアター7
★★★
→「ジョゼと虎と魚たち」の犬童一心監督と渡辺あや脚本の第二弾はゲイの父親を持つ娘の話であった。犬童監督の作品を全て見ているわけではないが、この人はボケ老人や身体障害者やゲイと言ったマイノリティにスポットを当てた作品が多いと思う。しかしそれは決して社会派としての視点ではなくて、興味を持っているという感じで自分はその世界に入り込むことはなく、外から覗いているような視点で扱っている。本作はまさにそういう作品でゲイの老人ホームという特殊な設定(の割には若いゲイもいっぱいいたが)のもとでストーリーを展開させている。脇にゲイ劇団の俳優や素人(ゲイ)、テレビドラマ俳優と言った「あまり映画ではみない人たち」を多用したのは、ベテラン俳優を使ったがためにみんなが勝手な小芝居を始めてしまい、バラバラになってしまった「死に花」の反省だろう。山崎(ドレスをいっぱい作ってた人)を演じたのは絶対に鶴見辰吾だと思ったが。色調を落としてしっとりとした感じで好感は持てるのだが、ストーリーはもう一つだった。ある種、世間に絶縁状をたたきつけたゲイを描きたい犬童の思いと家族を棄てた父親と娘の再会を描きたかった渡辺の思いが当初からずれており、後半に差し掛かるとそれがむごいズレになって見ててしんどくなった。まあ犬童もプロなのでそこはそつなくまとめている。が、それが映画のパワーや面白みを奪っている。オダギリジョーの描き方があまりにもぞんざいである。彼に憧れる中学生とか面白いエピソードも挟みこんでいるのに生かされていないのが残念である。この映画を見るのに一番興味を持っていたのは田中泯の出演であった。立ち姿が何ともかっこいいし、低くてあの渋い声が魅力的でそれがゲイの演技にどう生かされるのかと思ったが、気負うことなく、サラリと自然体でこなしているのがすごい。あごに手を持っていく所作とか細かいところがすごくそれらしく、本人の役柄に対する意欲が見える。山田洋次監督の「たそがれ清兵衛」で颯爽と映画デビューを飾ったあとは山田監督の「隠し剣 鬼の爪」にしか出演していなかったので俳優活動はイレギュラーなものかと思ったが、腰を落ち着けてやるようなので今後も楽しみである。オダギリジョーは感情を押し殺してあくまでストイックにかまえる男の後姿を美しく見せていた。この人も難しいことを言う人だが、今までにやったことない役柄に次々と挑戦して、俳優の幅を広げようとしている姿勢は賞賛したい。間違いなく、今の日本映画を代表する俳優であろう。西島秀俊も「帰郷」とはおよそ正反対の役柄をペロリと演じてしまう器用さがすごい。しかも相変わらずの自然体でやっちゃうのだ。柴咲コウはそんなに演技がうまい人ではないと思うが、どんよりと抑えた演技の中で「ピキピキピッキーン」が大変に可愛らしく見えた。場違いのようなダンスのシーンでも輝いていたし。ただバニーはやっぱ似合わん。ダンスホールのシーンや秀逸なラストなどの犬童監督の職人的な技術も惚れ惚れしちまう。

『メゾン・ド・ヒミコ』オフィシャル・ブック

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メゾン・ド・ヒミコ The Original Soundtrack of “La Maison de Himiko”

メゾン・ド・ヒミコ The Original Soundtrack of “La Maison de Himiko”