渡り鳥いつ帰る 1955年 東宝

☆渡り鳥いつ帰る 2/3 高槻松竹セントラル(女性映画傑作選10)
★★★★
→「警察日記」の久松靜児が監督した作品。永井荷風の3つの短編小説を久保田万太郎が構成し、それを「夫婦善哉」の八住利雄が脚色している。脚本だけでも手間隙かかった作品だが、蟻の街(映画では鳩の街)の町並みをセットで再現するなど撮影所のきっちりとした仕事ぶりが味わえる力作。

 この歓楽街の中にある一軒の”特殊喫茶”を舞台に、春をひさぐ女たちと彼女らのおかあさんとその旦那が織りなす群像劇である。空襲の最中に家族を見失い、なじみの女郎屋にしけこんでそのまま一緒になってしまった森繁久彌、蟻の町でしぶとく生き続ける女主人の田中絹代、子どもを養うために娼婦となった久慈あさみ、どこまでもドライな淡路恵子、客も取らずに居座る高峰秀子淡路恵子に岡惚れして追いかけ続ける太刀川洋一、もう戻らない男を待ち続ける桂木洋子、蟻の町から足を洗って「流し」に情熱を燃やす岡田茉莉子、そして森繁に棄てられて娘を連れて新しい男と一緒になろうとしている水戸光子と多士済々。これだけの登場人物一人、一人にきっちりと背景を書き込み、深みを与えて生き生きと描き出す脚本もすごいし、これだけのごちゃごちゃした話を流れるようなテンポで仕上げた演出手腕もそして演じきったキャストの演技も素晴らしい。

 投げやりにどっかと腰をすえてご飯をバカバカ食べる高峰秀子も面白いが、「王将」の名演技も印象的だった水戸光子が一番好きだ。空襲で旦那を見失い、飴屋をしながら娘を育てて新しい男とやり直そうとしている。そこに現れるのが死んだと思った森繁である。娘に未練がたっぷりな森繁は離婚を認めようとしない。その意地だけで女郎屋の主人に落ちた自分の尊厳を守ろうとしているのだ。。

 後半の1時間では、登場人物全ての人生が一夜のうちにクルリと一回転する様子をきっちりと描き出している。森繁のダメ男ぶりが際立っている。この1955年は喜劇俳優だった森繁が一気に日本を代表する俳優に駆け上がった年で「夫婦善哉」(豊田四郎)「警察日記」「渡り鳥いつ帰る」(久松靜児)「人生とんぼ返り」(マキノ雅弘)「銀座二十四帖」(川島雄三)と名作を連発している。カッコ内は監督名であるが、いずれも以降、森繁と多数の名作を残すことになる監督である。森繁を語ることなくして、日本映画を語るなかれ。いやこれは本当でっせ。

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警察日記 [DVD]

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人生とんぼ返り [DVD]

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銀座二十四帖 [DVD]

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それにしても高峰秀子といい、水戸光子といい、岡田茉莉子といい、昔の女優はこうも綺麗なのか。惚れたぜと思った人はクリックだ