白昼堂々 1968年 松竹大船

☆白昼堂々 1/12 シネ・ヌーヴォ(追悼 映画監督・野村芳太郎 さらば、映画のコンダクター)
★★★★
→「男はつらいよ」でブレイクする前の渥美清の主演作品。渥美清は元々映画で人気が出た人ではなくて、テレビで有名になったコメディアンだった。その渥美清がはじめて映画でヒットを出したのが野村芳太郎の「拝啓天皇陛下様」。これが1963年。一躍、松竹で主演映画が作られる俳優になるが、後が続かなかった。徐々に渥美清の映画は当たらない、という評判が立ち始めてまたまたテレビの仕事が多くなってきた。しかしそこで「男はつらいよ」に出会い、会社の反対を押し切って映画化。渥美清は見事、人気俳優に返り咲くのである。その後の活躍は皆様、ご存知のとおりで松竹だけでなく、日本を代表する俳優になった。「男はつらいよ」がもしなかったらどうなっていたか。山田洋次は松竹がつぶれても、映画は撮り続けただろうと思うが、渥美清は「日本映画を支えた名脇役」や「松竹の喜劇で活躍」として日本映画ファンに知られるのみの存在になっていたと思う。

 前置きが長くなったが、渥美清演じるのは、見た目は実直そのものの田舎者なんだが実はスリ団の頭領。スリで皆を養っている。描き方が面白いと思ったのは、明らかに犯罪者を描いた映画なのに渥美清はスリを生活の糧として仕方なく、スリをやっている男としているところだ。そして、その彼の姿に打たれて今は堅気になってデパートの防犯係をやっている、元スリの藤岡琢也がこっそりと協力する。そしてそれを追うのが二人をよく知り、彼らが堅気になったと信じている老刑事の有島一郎。この三者三様のやり取りがドラマの肝になっている。

 主演は渥美清だが、ドラマの主役になっているのは藤岡琢也。昔の仲間に頼まれて仕方なく、故買屋を引き受けてしまう。彼には娘がおり、彼女は父の過去を知らない。そして自分を更正させてくれた有島一郎への恩義もある。色々なものにはさまれて苦悩し続ける男を好演している。終盤の遊覧船で渥美清とタバコを吸うシーンが絶品である。藤岡琢也は舞台の出身。1965年に「悪名無敵」で初出演を飾る。彼を見い出したのは大映田中徳三で以降、日本映画に欠かせない脇役の一人になる。悪役だけでなく、こうした人間臭い、哀愁たっぷりの苦労人がうまい。

 渥美清は寅次郎と正反対のような実直で気の小さい、苦労人を熱演。もじもじしながら倍賞千恵子にプロポーズするシーンが楽しい。倍賞千恵子もさくらとは正反対のような一匹狼のスリを演じていた。この頃の倍賞千恵子は本当に可愛らしく惚れ惚れする。有島一郎の老刑事もよかった。背筋をしゃんと伸ばして眼光するどく、しつこくスリ団を追い詰めていく。こういう目に力のある俳優さんがめっぽう少なくなった。

白昼堂々 [DVD]

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