☆大根と人参

☆大根と人参 1/2 シネ・ヌーヴォ(社会派コメディの変遷「渋谷実前田陽一」)
★★★★
→1963年に亡くなった小津安二郎の原案を渋谷実が映画化。小津安二郎記念作品と銘打たれているが映画はあくまでも渋谷実の調子で小津の脚本は原案にとどめられている。松竹の中にあっても大船調には背を向けて独自の路線を進み続けた渋谷実だったが、代表作と言われる初期作品よりも後期作品の方が断然面白いと思うのは私だけだろうか。後期になるとだんだん作品が荒唐無稽になってきてキャラクターの色づけが濃くなって、楽しい作品になっているのだ。友人の山形勲とすさまじい喧嘩を繰り広げ、「ザマアミロオ!!」と連れ込み宿で狂ったように咆哮する笠智衆が目をひく。小津のおかげで名俳優入りした笠であったが「演技をほとんどしないのがいい」と言う評価は本人にとっては不本意で後年に小津に対しての恨み言もつぶやいていたという。カタギの職を投げ打って役者になった人なので元々、アナーキーな人なんだろう。渋谷実の映画での笠はいつもの飄々としたペースを崩さないものの、従来より味付けの濃い演技を披露しててとっても楽しそうである。共演の乙羽信子長門裕之を初めとして善人なんだが、自分勝手な人たちばかりが繰り広げるコメディに仕上がっています。なお本作を最後に渋谷実は松竹を離れて、東宝で喜劇を1本だけ撮って、1980年に亡くなります。生涯ほとんどの作品が松竹で彼もまた小津同様に、作風は大きく違いますが松竹大船の監督でした。

大根と人参 [VHS]

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