☆バナナ

☆バナナ 1/2 シネ・ヌーヴォ(社会派コメディの変遷「渋谷実前田陽一」)
→★★★★
ウェットなメロドラマを得意とした、いわゆる「大船調」と言われる映画に代表される松竹大船において涙や情緒を廃したドライな喜劇を得意とした監督がいた。彼の名前は渋谷実と言う。今日的に渋谷実と言ってもほとんどの人はピンと来ないだろう。戦後すぐの松竹である。当時の松竹ではナンバー1はもちろん小津安二郎。もう神のような存在であったらしいが、興行的にはさっぱりだったらしい。そしてその下でナンバー2を争ったのは木下恵介であり、この渋谷実だったのだ。この二人が松竹の稼ぎ頭であり、興行的にも批評的にも比べられることが多かった。大船調を基調に様々な作品で傑作を作った木下恵介と違って、大船調に対してはっきりと「反旗」を翻した渋谷実は徐々に松竹の反主流となっていき、やがて松竹を追われる。「バナナ」は当時の流行作家だった獅子文六の同名の小説の映画化。当時、バナナはまだまだ高級品でバナナと言えば台湾バナナ。輸入の権利を持っていたのは中国人華僑だけで大儲けしたそうです。まあそういう時代のお話で華僑の親子を中心に描いた群像喜劇です。シャンソン歌手を目指す岡田茉莉子のコメディエンヌぶりがとっても可愛らしい。「青ぶくの歌」を面倒くさそうに歌うシーンが思わず笑ってしまう。脇役にもちょっとオカマっぽい伊藤雄之助に不気味に笑う学生服の小池朝雄、怪しげな中国人を楽しそうに演じた小沢栄太郎杉村春子を誘惑しようとする仲谷昇と個性的な俳優がズラリと映画が賑やかになっている。何よりも食べるのが大好きな華僑の呉天童をゆうゆうと屋上松禄が演じているのもニヤリとしてしまう。「小洒落た」という言葉がぴったり来る佳作。