石井輝男、絶息 - ほぼ日本映画専門サイト「キネマの星座」

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石井輝男が亡くなった。享年81歳で年に不足は無かったが、現在進行形で活動を続けている人の死はいつだって悲しいものだ。私がこの人を知ったのは「地獄」であった。当時、よく聴いていたラジオ番組の「誠のサイキック青年団」で紹介されていて、今は無きシネマアルゴのレイトショーで見たのが石井輝男初体験であった。男性客が目立って多くて、「ああ、あの人はサイキッカーやな」とニヤリとしたのを覚えている。とにかくまあすさまじい作品で犯罪者を次々と地獄に落として無残に殺していくんだが、これがもう低予算で「それはギャグでやっているのか？」とさえ思ってしまうチャチなセットのオンパレードなのだ。舌を引き抜くシーンでは失笑してしまった。太陽に向かい全裸でスクワットする人々の尻でラストを迎えた時にはぐったりと疲れ切っていた。。これが今、DVDで見れるのだからすごい。キャストを見ると里見瑶子とか桂千穂（脚本家）が出てるんだよな。当時は斉藤のぞみと丹波哲郎しかわからんかったよ。

　その後、2000年の7月にみなみ会館で上映されたオールナイトの「東映カルトムービーオールナイト」で「直撃！地獄拳」と「やさぐれ姉御伝　総括リンチ」を見ているが、あまり熱心な石井輝男のファンではなかった。私はエログロが実は苦手なのでどちらかと言うと敬遠していたのだ。石井監督が如何に様々な作品を撮ってきて、いろんな人に影響を与えたかを知ったのはずっと後のことであった。当時の私の認識はケッタイな映画を撮るオッサンであった。今で言うと河崎実（いかレスラー）みたいなオッサンだと思っていた。しかし、「直撃！地獄拳　大逆転」や「網走番外地」を見て「石井輝男＝エログロの人」というイメージは間違っていることに気付いた。純粋にめちゃくちゃ面白いのだ。演出もスピーディーで心地よいのだ。そして石井監督をぽつぽつと見始めたのだ。

　この監督の持ち味はフットワークの軽さで早く、安く、そして面白い作品を撮れることに定評もあった。キワモノで売った新東宝で鍛えられたのだろう。新東宝の倒産で東映に移籍。「花と嵐とギャング」でギャング映画という分野を作り出す。東映東京撮影所の旗手となって現代劇で活躍。その後輩だったのが若き日の深作欣二で彼の影響を受けて「白昼の無頼漢」や「ギャング同盟」などの傑作を撮る。その後、東映の人気シリーズとなる「網走番外地」を監督。演技に定評はあるもののもう一つ売れなかった高倉健を一気にスターダムに押し上げる。まさに東映のエースだが、この人の活躍はまだまだ終わらない。この人の真骨頂はここからがすごいのだ。

　1967年、東映京都撮影所の所長だった岡田茂はプロデューサーの天尾完次にピンク映画の製作を指示。ピンク映画の女優を多数引き抜いてエロ時代劇の製作を開始させる。当時の東映は仁侠映画が当たりに当たって順風満帆であったが岡田茂は次なる金脈としてピンク映画に当たりをつけていた。どうしてエロ時代劇なのか、と言うと東映京都撮影所には時代劇の衣装がたくさんあったからだった。東映京都撮影所のスタッフに仕事を与えるというのも一つの目的であったらしい。その皮切りになったのが「徳川女系図」。この監督が石井輝男であった。以降、石井輝男はエロ時代劇から異常性愛路線、そしてグロ映画の「恐怖奇形人間」を発表する。

　世間の反感はすさまじく、佐藤忠男を始めとする映画評論家からは総スカン。それどころか、東映京都撮影所の助監督からも反乱が起こった。「子供に言えない内容の映画はもう作りたくない。俺は中村錦之助の映画が撮りたいんだ」とストが起こったのだ。が、石井輝男は「そんなことは会社に言え」と一蹴。岡田茂も「あれは石井輝男に対する妬みだ」と相手にしない。やがてストの中心人物が監督に登用され（「温泉ポン引き女中」という映画でもちろんポルノ）沈静化していった。

　80年代から映画から遠ざかっていたが、93年の「ゲンセンカン主人」で再びメガホンを取る。晩年は後進の指導、というかタダで映画志望の若者をこき使って映画を次々と発表していた。いくつか見ているが俺はあまり評価しない。東映の強みは石井輝男や鈴木則文と言ったフットワークの軽い監督を多く抱えていたことにあった。ポルノやグロと言った、あまりやりたがらない分野も職人として無難にこなした彼らの能力はもっと評価されてもいい。また一人、映画の全盛時代を知るものが世を去った。合掌。今頃、地獄で嵐寛寿郎と一杯やってるだろう。