地獄〜生きるも地獄、死するも地獄〜

 追悼の意味を込めて今から6年前の1999年に私が書いていた「地獄」の感想を載せておきます(一部加筆)。長いんで適当に読み飛ばしていただければ結構ですが、まだ映画を見始めたばかりで率直に映画の感想を語っているのでそこを楽しんでいただければ。。恥ずかしいけどね。


 映画の中には大衆に受けいれられにくい作品というものがある。それにはアートに凝りすぎて退屈だったり、監督の独善にしか過ぎない映画であったりすることが多いがこの「地獄」という作品はそれを超越して忌み嫌われる作品のような感じがする。この映画の最大の楽しみは一種のタブー破りである。皆が考えたことを石井監督は明確に映像化してしまったのだ。それは「なぜ麻原が殺した奴が安穏と生きてるんだ?」という疑問であると思う。被害者はもちろんのこと、オウムの犯罪を知るもの全てはこう思うと思う。

「こいつがやったに決まってるんだ。はやくぶっ殺せよ」

誰もがそう思ったことと思う。はっきり言ってオウムに冤罪は一個もないぞ。まさかフリーメーソンが黒幕なわけもあるまいに。こんな野郎に裁判受けさす必要があるのかよ、はやく殺せよ。十年以上も裁判やって無期懲役なんかになっちまったら30年ぐらいで釈放だ。結局、法律のある現代、どう転んでも殺された方が損で殺したキチガイ野郎の方が得にできている。所詮、法律など無力なのだ。「悪い奴ほどよく眠る」とはよく言ったものだが実際悪人の方が得なのである。そうすると世の中、真面目に生きるのが馬鹿らしくなる。世の中、悪人だらけになろう。悪人になったらこういう罰を受けるという確証がないと悪を犯すことなど何も怖くなくなる。

 昔は仏教思想というものは人を支配していた。輪廻思想である。悪いことをしたら来世にその報いが来る。。地獄に落ちるぞ。いわゆる因果応報説である。誰も見ていないが、お天道さんが見ている、というのもその一つであろう。それが人々のモラルになっていたのだ。が、今はその思想がない。近代化と共に多くの日本人はその考えを忘れてしまったのだ。現世の快楽だけを追い求めるのが是とされてしまったのだ。この凶悪犯罪がはびこる現代にこそ地獄絵の復活が必要なのだ!!!

・・・とまあ石井監督はそう思われたのだと思う。この思想は立派である。。がそこは石井監督である。。。長々と辛気臭い文章を書いてきたがこれは言わば「こう考えとかんとやっとられん」作品なんである。ここまで読むと大変立派な社会を啓蒙する作品のような気がするが。。意気込みが思いっきり空振りしとるんか、それか上に長々書いたのは僕がそうあって欲しいと思ってるだけで石井監督自体はちっともそんなことを考えておらんのかもしれん。実際、このオッサンが撮影中にやっとることを見ても(全裸オーディションとか上九一色村での撮影とか)こういうのが好きでやっとるだけな感じがする。

 町角でリカ(佐藤美樹)は突然、一人の老女(前田通子)に声をかけられる。「あなたの人生は破滅寸前ですよ、そこから逃れる方法はただ一つ。真の恐怖を経験すること。つまり地獄を見分すること。その特権をあなたに与えましょう」。実は彼女は今話題の宇宙真理教の教徒だったのだ。彼女は人生について悩んでいたのだ。彼女は地獄に連れていってもらうことにする(なんでや)彼女の手下魔子(斉藤のぞみ)に連れられ彼女は地獄に連れ込まれる。。目を覚ますとそこは三途の川。彼女は鬼によって服をぬがされかけるが(ここでいきなり全裸ですわ)魔子に助けられ地獄に向かう。閻魔(前田通子・二役)にあった彼女は地獄の風景を次々と見せられていく。。浄玻璃の鏡を覗くとそこには罪人の過去と未来が移る。宮島ツトム(無論、あのオタクちゃんね)、宇宙真理教(無論、メロンね)、林マスヨ(ミキハウスね)の犯罪とそして地獄の刑が映されていく。。

 オウムの犯罪、ミヤザキツトムの犯罪をそっくりそのまま映画の中でやってみせるその根性には脱帽しますがあまりにも場面展開が多い為に少ない予算が悲鳴を上げてもうセットが目茶苦茶。鬼役の人なんか牙をくわえてしゃべってるからふがふがしゃべりだし、肝心の地獄の風景もめちゃくちゃチャチイ。地下鉄サリン事件の再現も車両が用意できなかったんか真っ暗闇の中に人が座ってるだけ。学芸会かい!!のノリですわ。人が殺されるとこも人形のクビふり回して喜んでるだけだし。

 映画の中心は主にオウム犯罪で坂本弁護士事件から全ての事件(選挙出馬。仮谷さん殺害、リンチ殺人、松本サリン、逮捕、裁判まで)をチャチイとは言え再現してるのはおもしろい。。典型的なエクスプロイテーションフィルムって奴でキワモノ映画なんである。石井輝男は「明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史」で本物の阿部定も出演させてるしね。阿部定は作家の書いた阿部定事件の劇を自分が主演になって巡業したりとかもしてたらしい。刑務所から出て一時は普通の奥さんだったのもすごい。*1しかしこの手の映画というのは即時性が売りでオウムの事件が起こって5年後となっての公開となった本作はやはり新鮮味は失せている。ジョーユーとかムライとかも全部出演してるんですがほとんどの幹部名を忘れてしまった。昔ならいざ知らず、今の映画状況では難しいんだろうが。。ミニシアターも上映予定がギチギチらしいし。

 役者の方はもうほとんど素人ばっか(主人公自体、素人だし)でもう似てるかどうかで選んでるとしか思えん。話題は閻魔大王やった前田通子。新東宝で活躍した女優さんで色々あってスクリーンから遠ざかっていて、今回が40年ぶりの映画出演。よりによってこんな役かい。それからは丹波哲郎先生ですな。先生は石井輝男監督作品の常連。かつての出演作「忘八武士道」の明日死能を演じる。他の方はほとんど素人さん。演技は下手なんですが演技は二の次で似ているやつを選んだんでしょう。あとスタッフも大多数が逃げたらしく(パンフ記載)でこれがまた素人。パンフ(またえぐいんだがこれが)を読むとすげえ苦労したらしく、内容がこんなんだし、金主もつかんかったらしい。編集も荒いしエンドロールも一部まがってる。。大変苦労したことはわかるんですが。まあ「よく頑張ってるネ」賞はあげられます。予算いくらやろ。セットのショボサでは「シベリア超特急」と負けず劣らず。

 しかしこの何がなんでも映画を撮る石井監督のスピリッツは見習う必要があると思うぞ。何事においても。だってもう75歳だぞ?本当なら大御所やぞ。なお、絶対にビデオ化はないと断言できるので見ることができる人は万難を排しても見るべし。*2とりあえず笑えます。

 エンディングは世の中の真実に気づいたリカはサマラ服を脱ぎ捨て太陽に祈るシーンである。このシーンだけはなんとなくかっこよかった。20人くらいの女性が全裸で背中をむけてスクワット(なぜだ)してる姿は前衛映画を見とるようだった。。。。。く。。。男のケツもまじっとる。。なお、この映画に出てた斉藤のぞみは結構好きだったが今は全く見なくなった。一説によると遅刻癖がひどくて、クビになったとか。誰か知らんですか?

監督、脚本、プロデューサー:石井輝男 美術監督原口智生

出演:斉藤のぞみ薩摩剣八郎、前田通子、佐藤美樹、里見瑶子、北村有起哉桂千穂丹波哲郎

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*1:無限回廊を参考にしました

*2:DVD化もしてしまった