あいつと私(1961年 日活)

☆あいつと私 3/25 大津京町滋賀会館シネマホール(石坂洋次郎原作、日活青春名作選)
★★★★ 
石原裕次郎はカラー作品がよく似合う。もちろん、白黒でも「狂った果実」とか「幕末太陽傳」のような傑作もあるんだが、彼の精悍な笑顔はやっぱりカラーが映える。1961年の作品で監督は日活の問題児、中平康。全盛期の作品で題材も刺激的だし、テンポもいい。そして何よりも面白い。私が60年代の日本映画を集中的に見始めたのは、2003年の年末にシネ・ヌーヴォで上映した勝新太郎映画祭、そして続けて年明けから同じシネ・ヌーヴォでの中平康レトロスペクティブだったので、この頃に盛んに見た作品は感慨深い。

 初めて中平康の作品を見た時、そのスピーディーなストーリー展開に驚き、夢中になった。早口でまくし立てる台詞回しも気持ちよく、にんまりしてしまった。本作も昔、BSで見たことがあったが芦川いづみ渡辺美佐子中原早苗吉行和子轟夕起子と中平好みの女優がズラリとマイベストである「才女気質」の次に好きな作品で今回、スクリーンで再見したが、面白さを再確認した。もちろん、スクリーンで見てほしい作品だが、本作はDVD化されているので、ぜひ見てほしい作品である。

 舞台は安保闘争下の大学。まだまだ「婚前交渉」という言葉が生きていた時代に大学生の恋愛観、そして性道徳、倫理という深いところまでずばずば切り込んでおり、友人が安保闘争の最中にレイプされたり、息子の性欲の処理に親が女を用意したり、と結構テーマは重い。が、テンポの足取りはあくまでも軽く、カラリとしたコメディ調の学生ドラマになっているのはさすが中平康と言った感じだ。

 主人公は芦川いづみノンポリの女子学生であるが、娘から女への脱皮を図ろうともがく。小顔でショートヘアがよく似合うリスみたいな女優さん。ちょっとつんとするしぐさがたまらなく、可愛い。彼女が変わるきっかけになったのがカリスマ美容師の倅で表裏無く、豪放磊落に生きる石原裕次郎。小難しい理論を振り回す女子学生に向かって、うっかりと「夜の女を買った」と言ってしまい、女子学生から総すかんを食らうところから映画は始まる。

 若い頃(と言っても4年前ほどですが)、石原裕次郎って嫌いでしたけどね。最も、物心ついた時にはもう死んでましたが。西部警察のイメージがあって、ごついオッサンにしか見えなかった。「幕末太陽傳」の高杉晋作で若い頃を知って、「太平洋ひとりぼっち」でその魅力に気づいた。この日はロビーで隣に座ってたおばさんと話をする機会があったのだが、裕次郎の魅力はやはりあの屈託の無い笑顔であろう。その笑顔に惹かれて男も女も映画館を足を運んだ。製作再開後、五社協定で締め出しを食らった日活が他社に肩を並べるまでに成長したのは新人であった石原裕次郎、この人がいたからである。本作もそうした裕次郎の魅力を充分に感じられる作品であった。

 脇を固めるのは、畳み掛けるような台詞回しがとってもチャーミングな中原早苗学生運動にすべてを捧げる吉行和子、息子にお出かけ前のキスを求めるカリスマ美容師の轟夕起子、無邪気に子供みたいなおばさんなんだが、どこか憎めない。挑発的に色っぽく、ミステリアスな年増を渡辺美佐子と女優陣も素敵だが、髪結いの亭主で嫁に振り回される宮口精二もいい。轟は性的にも奔放な女性で愛人を家に引っ張り込む。そのたびに亭主の宮口は激怒し、出て行こうとするが「私が愛しているのはパパだけ」という轟の言葉に最後は負けてしまう。裕次郎がその後姿を見てポツリと「ご苦労様 パパ」とつぶやくシーンがいい。チョビ髭にステッキでチャップリンのイメージですな。機嫌がいいと調子外れな声で歌ってしまう。人のいい、苦労人。轟が惚れるのもわかる。本当にいい人を宮口精二が好演。ラストも見せ場です。それから吉永小百合酒井和歌子芦川いづみの妹役で出演。

 主題歌もいい。作詞が谷川俊太郎ノリ重視で作ったみたいな、いい加減な歌ですが裕次郎が歌うとぴったり来る。谷川俊太郎は「危いことなら銭になる」でも素敵な歌を作っています。(詳しくはid:shimizu4310さんのブログ参照→

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