悲しき天使

★悲しき天使 10/27 MOVIX京都シアター8(第五回京都映画祭)
★★★
→映画も撮るお医者さん、というよりも医師免許を持つ映画監督と呼ばれたい大森一樹最新作。この日は監督の舞台挨拶付き。70年代後半、大阪が元気だった頃に自主映画の雄として鳴らして映画界入り。映画不況で名のある映画監督でもなかなか撮れない時代にも作品を撮り続け、順調にキャリアを積み上げてきた。しかし近年の作品群は正直、金払って見たいもんじゃなかった。往年のマキノ雅弘のように、と言えば聞こえはいいが(よすぎるわ)アニメ映画からテレビの企画物、バブルの残り火みたいなトレンディドラマ(死語)の延長みたいな映画とほとんど便利屋扱いだったもんなあ。本作は完成しても公開する劇場がなかなか決まらなかったらしい。織田裕二にミソをつけた「T.R.Y.」の失敗で東映からも目出度く縁切り。しばらく見ないなと思っていたが、この映画を上映してくれる劇場がなかったらしい。「ああ、俺の作品も遂にオクラか」と絶望しかけていた時に今年の湯布院映画祭で上映が決定。京都映画祭で上映後には12月15日からシネ・ヌーヴォで公開が決まっている。やっぱりこの人、運ええわ。

 本作、公開されるまでが大変だったが、できるまでも大変な難産であった。当初は野村芳太郎の「張込み」をリメイクしようと始まったらしいが、戦後すぐの混乱した時代を舞台にした作品を現代の舞台にするのは苦難の技で設定やドラマを大幅に改編したところ、原作権者に原作クレジットを拒否されてしまったらしい。そらそうやろ、と正直に思う。焼け野原になった東京に虚しさを感じた男が銃を手にしたら、、という設定自体が戦後すぐだから説得力あるのであって、現代に置き換えたらただの身勝手な都会型犯罪である。

 大体、「張込み」をリメイクすることに意味あるのか?リメイクと言えば、、大森一樹には「日本沈没1999」ってのがあったなあ。。もう忘れたれよ、の世界だが、公開時期未定でいつまでも松竹のラインナップにあったことをオールドファンは忘れておらん。最もあの時期、松竹自体(いや日本映画自体も)が沈没しそうだったのにいつの間にか、ポシャってましたが。。

 閑話休題。如何にして銃による殺人に意味を持たせるか、その苦心惨憺の後は見えるのだが、つまらない。はっきり言えばありがちで火曜サスペンス見てるような気分になってくる。火曜サスペンスみたいと書いたのは別に悪口じゃないけど、片平なぎさ船越英一郎が出ているドラマを映画館で金払って見たいとは思わないでしょ?

 主要登場人物を女性に置き換えて30代女性の心模様を描いているが、それも中途半端。高岡早紀への書き込み量はすごいけど、山本未来河合美智子への書き込み量はわずかで河合美智子に至ってはラスト近くにしか出てこない。だからラストの河合美智子の行動がよくわからないのだ。ネタバレになるので詳しくは書かないが、あれが彼女の夫の昔の恋人への裏切りでないのなら、脚本の不備、いや手抜きだろう。そりゃ。

 一応、フォローしとくと。。欠点が多い映画ではあるが、割と楽しめるサスペンス映画にはなっている。石を一つ一つ積み上げていくような感じで丁寧に作られている。老刑事を演じた岸部一徳の存在感が何よりも素晴らしい。悪役から慈愛に満ちた父親からコメディリリーフでも何でもきる俳優だが老境を迎えて、飄々とした中にも、こうしたプロフェッショナルを感じさせる、こういう役柄ではこの人の右に出る俳優はいない。これは彼の代表作の一つになるだろう。

 周知の事実であるが、この人はザ・タイガースのベーシストで俳優をはじめたのはほとんど成り行きのようなものだったが、この人のお父さんである岸部徳之助はマキノ雅弘と京都一商時代に同級生で親友だったらしい。映画には縁があったのだ。マキノ雅弘は後年、堺正章主演で「森の石松」をやったときに弟の岸部シローを使っている。なお、甥っ子の津川雅彦が撮った「寝ずの番」に岸部さんが出演しているのもそのあたりの縁なのかもな。

張込み [DVD]

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映画渡世・天の巻―マキノ雅弘自伝

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