男はつらいよ フーテンの寅(3作) 1970年1月15日封切

 日本映画が坂道を転げるように悪くなっていた1968年の出来事である。松竹の社長だった城戸四郎は「プログラムを間に合わすという考えで安易にシリーズ化するのはよくない。今後は三本以上のシリーズは作らない」と語った。結局、日本映画がダメになったのはスターの当たり役をシリーズ化する、というのも何回も繰り返したことでスターにもその手法にも観客が飽きてしまったところにあった。リバイバル上映されるのは傑作だけであり、つまらない映画はやはりつまらない。これは今にも言えることですね。70年代以降、東宝は大作主義に移行。予算をたっぷりかけた大作で観客をかき集め、生き残ったのだ。松竹も本当に面白い大作を作ろうと考えたわけです。

 が、この二年後。その禁はあっさりと破られた。第一作、第二作とまあ及第点をおさめた「男はつらいよ」の第三作の製作が決定したからである。最も会社はまだシリーズ化を決めたわけでなくて、単に撮影所に「とらや」のセットが残っててすぐに撮影に入れたからであったらしい。当たる作品があれば、その鉱脈を掘りつくすまで作り続ける。結局はその日本映画の体質から松竹は抜け出せないでいたのだ。前作が前年の11月に公開だから、もう矢継ぎ早の封切である。

 当然、製作の日程はカツカツで山田洋次はやむなく、監督を森繁久彌に才人と呼ばれた森崎東にバトンタッチ。脚本を担当している。森崎東は第一作の脚本にも参加しており、本作の脚本も書いているが没になっている。森崎東が何を描きたかったのか。それは映画を見ればわかるが、彼が描きたかったのはテキ屋の世界と市民社会との遊離であって差別される者としての寅次郎であった。山田洋次と全く考えが違うのだ。

 カツカツの日程での撮影のせいか、さくらがほとんど登場しない。(ほんの10分ほどである!)ゲストの新珠三千代をはじめとしてキャストは結構豪華なのであるが何かあわただしい印象が強い。本作の寅次郎はとにかく暴力的でおいちゃん、博と殴り合いの喧嘩をするシーンがあんまりシャレにならん。大晦日、おいちゃんやおばちゃんがテレビを見ていると寅が街角インタビューを受けていて、故郷にいる妻へのメッセージを語っている。もちろん、寅に女房などありゃしない。嘘である。その嘘を悲しく思い、おばちゃんとおいちゃんはさめざめと泣くのだ。。こんなん、笑えるか?

 失恋シーンも残酷。新珠三千代にはっきり嫌われてさびしく宿を去っていく。のんびりとした口調ながらも大真面目に左卜全が引導渡すシーンも笑えない。まあ失恋とは残酷なものなんですが。。うなづいてるな、ちくしょうめ。

 でもさすが松竹喜劇の天才と言われた森崎東でスピーディーにポンポンとストーリーを展開させていく手法は鮮やかで、渥美清の胸がすくような仁義も楽しめる。ただ、前田吟が「二人の監督がいたようだった」と語っているように山田洋次森崎東の「男はつらいよ」に対する世界観は全く違っており、森崎東はこの一作で降板してしまう。

スタッフ:監督:森崎東 脚本:山田洋次宮崎晃小林俊一 企画:高島幸夫 撮影:高羽哲夫 音楽:山本直純 美術:佐藤公信
キャスト:渥美清倍賞千恵子森川信三崎千恵子太宰久雄笠智衆前田吟佐藤蛾次郎津坂匡章秋野太作)、新珠三千代香山美子花沢徳衛河原崎建三春川ますみ左卜全、悠木千帆(樹木希林) 

男はつらいよ フーテンの寅 [DVD]

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