ありがとう

★ありがとう 10/25 MOVIX京都シアター8(第五回京都映画祭)
★★★★
→正直、期待していなかった作品だった。震災からの復興がテーマでノンフィクションの映画化。しかも主演が赤井英和である。

さらにである。この映画 ありがとうは東映の作品で毎年恒例になっている秋口から正月映画までのつなぎ映画である。

私が最も苦手とするところのお涙頂戴のクサい映画やな、と思いながら見に行ったのだ。

 ところが、これが面白かったのである。映画自体は思ったとおりのクサい映画で嫌いな人は嫌いなんでしょうけど、思った以上にストレートにドラマをまっすぐ描いていてそのパワーに圧倒されてしまった。そして時間を忘れて見入ってしまった。その描き方があまりにもストレートで気分がよくなったのだ。

 あまりしない経験だが、頭空っぽにしてただただ圧倒されるという映画の見方もそう悪くない。ストーリーは阪神大震災で被災したおじさんがプロゴルファーに挑戦する話で、大きくわけて、震災のシーン、復興に向けて主人公がボランティア、自治会活動に奔走するシーン、プロゴルファーに挑戦してプロテストを合格するまでの3つのシーンで構成されているが、それぞれにメリハリをきっちりつけて飽きずに見る事ができる。

 戦争を題材に取った映画が60年代まで臨場感を持って受け入れられたのと同じで、皆の心に震災の記憶、とりわけ関西人があの震災を忘れるほどの時間はいまだ経過していない。ほとんど被災していない京都在住の私でもあの地震については10年以上立った今でも決して遠い記憶ではない。冒頭の震災のシーンは大掛かりなセットによる特撮に加えて、実際の映像を混ぜて臨場感たっぷりに観客にまざまざと記憶を思い起こさせることに成功している

 地震当日、京都は揺れこそひどかったものの、被害はほとんどなかった。映画でも再現されていたが当初は京都の震度5が最高で京都、大阪の人々は普通に出勤、通学を予定していたのだ。神戸が火の海になっていたのを知ったのは夕方のことであった。テレビから流れるその映像、それは地獄であった。燃え盛る火、体育館に避難する人々の群れ、そして避難所の廊下に並べられた遺体。。泥に沈むポートアイランドを見た時に天災の恐ろしさを感じた。特撮を担当したのはプロデューサーの仙頭武則。名前を見た時には特撮の才能なんかあったのか、と思ったがなかなかの迫力でCGを混ぜながら町が壊れていく様を描いている。

 主演は赤井英和で市井の威勢のよいオッサンを演じている。そんなに演技の引き出しがあるタイプではないのだが、身に合った役を演じる時の存在感が実に素晴らしい。「どついたるねん」「王手」以来のハマリ役でこれは彼の代表作になるだろう。「がけにしがみついてるその手、放してみいや!」と言い切るシーンがかっこいい。脇を支えるのは嫁はんに田中好子。この二人の掛け合い、息がぴったりで心地よい。田中好子の関西弁はやや下手だがまあいいか。友人役の光石研尾美としのりも適度にコメディ色を加えて映画を彩っている。娘役に尾野真千子前田綾花と日本映画ファンにこたえられないキャストなのも見逃せないですな。それから特別出演のように豊川悦司(短い出番ながら超熱演)、佐野史郎がチョロっと出演してます。吉本の芸人が何人か出てますが。。こっちはどうでもいいです。

 監督は「UNLOVED」の万田邦敏。映画ファンでも万田邦敏と聞いてピンと来る人は少ないだろう。黒沢清塩田明彦青山真治を輩出した立教大学自主映画制作サークル、パロディアス・ユニティーの出身にして、立教大学の教授として教鞭をとっておられるすごい人なんである。前作の「UNLOVED」は身の丈にあった平穏な生活を何よりも望む女性を巡る恋愛ドラマで地味な映画なんだが、私は結構好き。この人がこんなコテコテなアツいドラマ撮るとは思わなかったです。

今から4年ほど前に書いた「UNLOVED」の感想がありましたので、加筆修正して載せておきます。