藤岡琢也、死去

 藤岡琢也が亡くなった。享年76歳。ごま塩頭の小さなオッサン。私がこの人を初めて見たのは「サッポロ一番」のCMであった。子供の頃、八百屋や魚屋のオヤジって言えば頭に浮かんだのは「サッポロ一番」のオッサンであった。そして私はそのオッサンが大好きであった。彼が藤岡琢也という俳優だと知ったのは随分、後のことだった。CMってのは俳優の顔の一つですな。

 この人の代表的な仕事と言うと「渡る世間は鬼ばかり」の岡倉大吉役になるのだろうが、映画の出演も多かった。若い頃はコメディリリーフ的な役回りが多かったので、喜劇出身だと思っていたが元々は舞台の人である。大映の映画監督だった田中徳三がテレビを見ていると大阪弁が達者な役者が出ている。当時撮っていた「悪役無敵」で迷っていた役にぴったりだったので、出てもらった。これが映画出演のきっかけだったとか。二人は同じ関西学院大学の出身でジャズが好きという共通点もあって、気があったのか、田中監督の作品にたくさん出演している。なお大学時代の友人にはキダタローもいる。これも音楽つながりでしょうな。

 アクの強い関西商人(「とむらい師たち」)やヤクザの親分(「新仁義なき戦い 組長最後の日」)から、ふてぶてしい悪役(「悪名桜」)から何でもできた役者さんであった。早口でぐちゅぐちゅ言う関西弁の節回しが得意で関西人の役が多かった。印象に残っているのはやはり渥美清共演の「白昼堂々」である。元スリだったが足を洗ってデパートの保安員をやっていた藤岡をスリ仲間の渥美が訪ねてくる。貧しい者を養うためにスリ団を率いている。協力してくれないか。昔のよしみである渥美のために藤岡は骨を折るが、やがて彼らをよく知る老刑事、有島一郎と対決することになる。野村芳太郎の作品である。娘にスリだったことを隠しながら、堅気の道を歩もうとしているが仲間は見棄てられない。その背中には男として、父親としての悲しみが漂っていた。渥美とボート上で煙草を吸う藤岡琢也はめちゃくちゃかっこよかった。それから深作欣二の「赤穂城断絶」での大野九郎兵衛。ご存知のようにとっとと逃げてしまう家老役だが、金と命に執着する俗物ぶりが言わばご立派な人ぞろいの忠臣蔵の中にあって一際、目をひいた。実際の大野は商人になって財をなしたというから、そこそこの人物だったのだろう。(映画では大石の身代わりになって殺されている。気の毒だ)案外、深作は本音で生きるこの役を気に入ってたのではないかと思う。

 遺作は「死に花」。仲間に計画を残して序盤に死んでしまい、ビデオレターでお別れを告げていた。少しテレたように煙草をくわえた姿が思い出される。また一人日本映画を彩った役者が亡くなった。合掌。

死に花 [DVD]

死に花 [DVD]

新 仁義なき戦い 組長最後の日 [DVD]

新 仁義なき戦い 組長最後の日 [DVD]

悪名桜 [DVD]

悪名桜 [DVD]

悪名無敵 [DVD]

悪名無敵 [DVD]

白昼堂々 [DVD]

白昼堂々 [DVD]