多々良純、死去
多々良純が亡くなった。享年89歳。老け顔の俳優ってのは息が長い。この人も随分若い頃から爺さんであった。川島雄三の「東京マダムと大阪夫人」という1956年の作品で女房に頭が上がらない人事課長を演じていたが、その頃からもう初老の役柄であった。戦前からの舞台俳優で戦後は劇団民藝にも身を置いていた。出演作品にも独立プロ作品が多いのはそのせいか。
「七人の侍」や「赤線地帯」「たそがれ酒場」などの巨匠作品の出演もあるが、この人の本領はコメディリリーフから悪役から何でもできたことだろう。最高の当たり役は渋谷実の「現代人」で役人に賄賂を握らせて意のままに操ってしまう建設屋を憎々しげに演じていた。逃げようとする池部良にしつこく絡み続ける厭らしさは絶品なのだが、35歳でこんなふてぶてしい俗物を演じ切れていたことに驚く。フィルモグラフィを見ると「大番」シリーズの番頭さん役や「お姐ちゃんお手やわらかに」のお父さん役などの喜劇への出演が多いが、「悪名桜」の因業家主のような悪役も多い。深作欣二の「新仁義なき戦い 組長最後の日」にも出演。九州のヤクザ兼土建業の親父でアンマに化けたオカマの殺し屋に殺されてしまう。豪放磊落な親分を楽しそうに演じていたのが印象に残っている。
チョイ役ばかりで賞には無縁の人だと思っていたが、1956年にブルーリボン賞の助演男優賞を受賞している。ブルーリボンは映画記者が選ぶ賞で知名度は低いが、ビートたけしが「あの夏、いちばん静かな海。」で作品賞を受賞したときに「この賞は本当に欲しかった。ありがとう」とコメントしたように映画人からすごく注目されている。1957年にもらっているのが三井弘次だったりして助演男優賞の受賞者は相当に渋い。受賞作品は「あなた買います」「鶴八鶴次郎」「台風騒動記」。どれもまだ見ていないのがちと悔しい。この世代で残るのは村上冬樹さんだけになりましたな。合掌。
- 出版社/メーカー: 松竹ホームビデオ
- 発売日: 1992/06/21
- メディア: VHS
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 出版社/メーカー: 松竹ホームビデオ
- 発売日: 1991/09/22
- メディア: VHS
- この商品を含むブログ (1件) を見る
- 出版社/メーカー: 東映ビデオ
- 発売日: 2003/04/21
- メディア: DVD
- クリック: 5回
- この商品を含むブログ (12件) を見る
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2004/02/18
- メディア: DVD
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (12件) を見る