集金旅行 1957年松竹大船

☆集金旅行 9/1 シネ・ヌーヴォ 松竹110周年祭
★★★★
→松竹大船のエース、中村登監督作品。ルポライター竹中労曰く「我が生涯の最良の喜劇として、川島雄三の『幕末太陽伝』とこの作品をためらわず挙げることができる」。竹中労は映画にも造詣が深く、キネマ旬報で「日本映画縦断」を連載。戦前の映画史を丹念に調べ上げ、聞き書きを中心に独自の映画史を展開していた。連載後期には当時編集長だった白井佳夫、滝沢一と組んで「浪人街」のリメイクを企画していた。結局、これが東映とこじれて、白井佳夫と共にキネマ旬報から追放される。ライフワークとして決めていた連載の中断に怒った竹中労キネ旬との長い裁判に突入するが。。これはまあ別のお話。なお、白井佳夫の次の編集長は角川ヘラルドの社長様に成り上がられた、映画界の今太閤(もちろん、皮肉です)こと黒井和男御大です。オーナー上森子鉄さんのお達しだったそうで。この人は大物総会屋の一人です。当時は総会屋が雑誌のスポンサーになることが多くて、言論雑誌なんかほとんどそうでした。そうした総会屋雑誌がバタバタ倒れていくのはロッキード事件後のことでそれまでは総会屋が雑誌を持つのは普通のことだったのです。前述の竹中労が書いてた雑誌もほとんどそうだったので、連載が次々と無くなる。たまらず、「潮」に逃げ込んで創価学会擁護記事で糊口をしのぎます。。って相変わらず、私の文章は脱線が過ぎますな。竹中労はいいの。「集金旅行」に戻ります。

 女房に逃げられたアパートの大家、これが中村是好です、が自棄酒あおって頓死。集まったアパートの店子は大家の子どもとアパートの始末をつけるために大家が各地の人に貸し付けた借金を集めて回ることを考え付く。白羽の矢がたったのは、本日、出版社がつぶれてめでたく失業者になった佐田啓二。そこに岡田茉莉子が加わる。彼女は二号さんで各地に慰謝料を取る相手がいるので一緒に回る、というのだ。こうして大家の子どもを加えた3人の道行きが始まった。。言わばロードムービーですな。一行は岩国から萩、松江、尾道、徳島へと旅を続けていく。佐田と岡田は全くそりがあわないのだが、旅を続ける中で淡い恋愛感情が生まれてくる。但し、これが一筋縄ではいかない。起承転結の「転」から「結」への持っていきようが鮮やか。

 脇役が素晴らしい。土地の名士の伊藤雄之助。曰く「人格者でメシを食ってますからな」とぼそりと言うのがおかしくて仕方が無い。面食いの産婦人科医にトニー谷岡田茉莉子を追い回す、しつこいキャラなんだがフットワークが軽くてどこか憎めない。泥鰌おどりを呑気で踊り狂う様が絶品。そしてなんと言っても花菱アチャコである。ヤクザもんだが、腕力で女をねじ伏せてもそれが男のカイショや!と言い切る強烈なキャラクターを怪演していた。佐田啓二が思わず、アチャコの持ちネタである「むちゃくちゃでござりますわな」とつぶやいてしまうところで吹き出してしまった。入れ代わり立ち代わりで喜劇人が総出演。テンポよく、進めて行く演出は軽やかで爽快だった。

 ドタバタ喜劇でありながら、どこか生活臭を感じさせる芝居のうまさ。背景のローカル・カラーと重なって旅行ものにふさわしい旅情を感じさせるのもうまい。延々と阿波踊りを踊る人々をロングで撮るラストがすげえ。原作は井伏鱒二。日本文学史における功績は皆様ご存知の通りですが、私にとっては、小学生時代に夢中になって読んだドリトル先生物語全集の訳をした先生ですな。

集金旅行 [VHS]

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