☆酔っぱらい天国

☆酔っぱらい天国 1/2 シネ・ヌーヴォ(社会派コメディの変遷「渋谷実前田陽一」)
★★★★
小津安二郎木下恵介はいずれも大酒のみであったが渋谷実吉村公三郎大庭秀雄はお酒を全く飲まずに若き日にティ倶楽部とあだ名されていたと言う。酒は本当に飲む人と飲まない人で評価が分かれるが、酒飲みの乱暴に対して社会が甘すぎるのは今も昔もかわらん。「酒の上でのこと」でいくら無礼なことをされたか。そっちは忘れてもこっちは死ぬまで忘れんぞ。活動屋や映画俳優なんてのは飲む、打つ、買うが当たり前の世界で酒飲みが多かった。そうした世界身をおいていた渋谷実はおそらく相当に酒飲みにむかついていたんだろう。私も酒は飲まんから酒飲みは大嫌いだ。この映画はそうした酒飲みに対する鬱憤と「酔っぱらい天国」の現状に対する痛烈な皮肉をたっぷり込めて投げ込んだ剛速球。ただ、そのキッツイブラックコメディはこの時代、やっぱりあまり受けなかったみたい。今でもあんまりうけんだろう。渋谷実は喜劇に毒をピリリときかせてアクセントの強い作品を作るのがうまかったが本作はその毒が強すぎて、かなりしんどい。ベロベロになった笠智衆が殺された息子の亡霊と話すところが痛々しいし、ラストもかなりしんどい。それを笠さんがいつもの演技で淡々とやっちゃうので余計に痛ましい。でも渋谷監督はそれをもポーンと突き放してしまう。知る人ぞ知るという作品なんだがキャストがすごい。主人公に笠智衆で殺される息子が石浜朗、そしてその彼女が倍賞千恵子石浜朗を殺す野球選手に津川雅彦というキャスト。他に有馬稲子山村聰滝沢修佐藤慶伴淳三郎に三井弘次まで出ている。なお、笠さんと三井弘次は私生活でも仲がよかったらしく、中井貴一が父(佐田啓二)の仏壇に線香を上げる為に二人でよく来ていたことを書き残している。「なんで死んだんだ。。」と泣き酒でベロベロになった三井を笠さんが連れて帰っていたらしい。ちなみに笠さんは酒が飲めなかった。

酔っぱらい天国 [VHS]

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