子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる 1972年 勝プロ

子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる 11/11 高槻松竹セントラル(不滅の時代劇傑作選4)
★★★★
→勝プロの作品が今見ても充分に面白いのは、勝新太郎若山富三郎先生の魅力ももちろんだが、スタッフが一流であったことに尽きるのではないだろうか。何しろ、そのスタッフのほとんどが、当時最高水準の技術を持っていた大映のスタッフである。監督には、人間を最も描ききった鬼才・増村保造、スプラッタ描写を芸術まで押し上げた天才・三隅研次、映像の魔術師・田中徳三、寡黙なベテラン・森一生を抱え、撮影には当時、飽くなき求道者・宮川一夫、80年代の大作には欠かせない存在となった森田富士郎と多士済々であった。

 本作は当時、大人気であった劇画「子連れ狼」シリーズの第一作であり、監督は三隅研次で脚本はなんと原作者の小池一夫が書いている。シリーズ一作目にふさわしく、拝一刀と大五郎がなぜ冥府魔道を歩むに至るかがきっちりと描かれている。三隅監督の演出のキレが素晴らしい。胴太貫がうなると首がすっとんで血が噴き出す。これを恐ろしく、スピーディーに描き出すのだ。自分の噴き出す血で溺れる奴、切られたことがわからずにおろおろしているうちに死んでいく奴。。はっきり言ってギャグなんであるが、それをギャグと思わせないほどスピーディーにそしてスタイリッシュに描いていくのだ。

 若山富三郎は芝居は重いが、動きはすばやい。豪快にばっさばっさと切っていくその勢いがかっこよくて、そして面白い。敵役の柳生烈堂役はほぼ毎回変わるが(それでいいのか)栄えある一回目は伊藤雄之助。相変わらず、芝居が臭くて不気味な悪役を楽しそうに演じている。自分の息子がばっさりやられるところを悠長に解説しているシーンは不気味なものを通り過ぎて滑稽でさえあった。

 本シリーズは日本でもそこそこのヒットをおさめているのだが、アメリカにおいても「ハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかった男」と呼ばれたロジャー・コーマンが本作と二作目の「子連れ狼 三途の川の乳母車」を再編集して「Shogun Assasin」というタイトルで公開し、大ヒットを記録している。この遠慮が全くないスプラッタ描写がクエンティン・タランティーノサム・ライミに影響を与えた。最近、劇画をそのまま映画にしてしまうという試みに挑戦した「シン・シティ」という映画がありましたが、既に30年前に三隅研次小池一夫によって数倍以上の出来栄えで持って作られていたのだ。外国人をうならせる映画監督は黒澤明だけではないのだ。そしてそんな映画をほとんどの日本人は知らずに「キル・ビル」がクールだとか言ってるわけである。

 三隅監督は大映倒産後、いち早くテレビに進出し、非凡でない演出を発揮する。映画界でも2時間40分もある「狼よ 落日を斬れ」を発表し、大作監督の道を歩み始めるが、1975年に54歳の若さで逝去。生きていれば山本薩夫のように骨太な大作を撮れる監督として重宝されたであろう。

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剣―三隅研次の妖艶なる映像美

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