喜劇 特出しヒモ天国〜人間はみな死ぬんじゃ、おまえらはみな死ぬるんじゃ〜 

kawatani


 今日紹介するのは第七藝術劇場で見た森崎東ベストセレクションから「喜劇 特出しヒモ天国」。74年の「街の灯」を最後に松竹を離れた森崎監督がその翌年に東映で撮った作品です。同時上映は将軍・山下耕作の「日本暴力列島京阪神殺しの軍団」。

 60年代、東映任侠映画を多く上映しますが一方で大量生産されたのがポルノ映画。実はこれが結構人気あったのだ。低予算の映画にお客さんがたくさん入った。指揮を取ったのは京都撮影所の所長だったミスター東映こと岡田茂とその弟子、天尾完次。仁侠映画のエースだった石井輝男、変化球投手の鈴木則文、なんでもありの中島貞夫を投入。池玲子杉本美樹を使ってエロとグロとヴァイオレンス満載の“ピンキーヴァイオレンス”な世界を出現させたのである。

 岡田茂は自ら題名をつけるのが好きで「温泉みみず芸者」「徳川セックス禁止令」「エロ将軍と二十一人の愛妾」「ポルノの帝王」などの珍妙なタイトルをひねりだす。インテリ映画評論家佐藤忠男先生の批判も京都撮影所助監督の批判声明も相手にせず、東映ピンキーヴァイオレンスは突っ走る。伊藤俊也の「女囚さそりシリーズ」を生み出し、関本郁夫牧口雄二が傑作を連発した。実録ヤクザ映画と同時上映となり、あの「仁義なき戦い」の同時上映作品は杉本美樹の「女番長」(スケバンと読ませる)だったのだ。たかがポルノとバカにすることなかれ。香港の映画会社はピンキーヴァイオレンスの池玲子を高く買っており、彼女の出演と引き換えにブルース・リーの主演作品の配給権を東映に渡した、なんて噂まである。

 この世界は今や、研究する人もほとんどおらず、ビデオもほとんど出ていない。池も杉本も今何してるかはわからないしね。杉作J太郎植地毅が書いた「東映ピンキー・バイオレンス 浪漫アルバム」はこうした映画への溢れきっている愛がぎっしりつめられた名著である。思うに杉作の最もいい仕事はこの本と「仁義なき戦い 浪漫アルバム」になる。今やってる仲間内の遊びみたいな映画はおそらく失敗するだろうし、本人はイケてると思ってるんだろうがポエムもアホ臭くてイタさ爆発なんで辞めた方がいいと思うけど。

 京都のお墓の隣にあるストリップ小屋のお話。隣から和尚さん(殿山泰司)が拡声器でがなる変なお説教を尻目に殺して今日も女の子は踊り、男は目をらんらんとさせていた。車のセールスマンだった昭平(山城新伍)はひょんなことからストリップ小屋の支配人になってしまった。ストリップ小屋はいつも女の子とそのヒモでにぎやか。当初は戸惑っていた昭平だがこの商売が水にあったらしく、店を立派に切り盛りしていた。トップで姉御肌のジーン(池玲子)にアル中のヨーコ(芹明香)、オカマのサリー(カルーセル麻紀*1と気のいい女ばかりだった。ヒモにはサリーを男と知らずに九州から追いかけてきた義一(川地民夫)、ベテラン振り付け師の善さん(藤原釜足)、刑事だったがヨーコに強姦疑惑をかけられてクビになってヨーコのヒモになった大西(川谷拓三)などなど。。やがて時が過ぎ、女の子達はヒモを連れて小屋を移っていく。その一行の中にはジーンのヒモとなった昭平の姿もあった。

 東映のスタッフ、俳優をまるで何年も使ってるような手際のよさで自らの色を出して映画を作っていく森崎東の演出力が素晴らしい。松竹ではできなかった下品なドタバタ満載でとっても楽しい映画。。多くの登場人物を散りばめてお色気をふんだんに使って爆笑シーンも盛り込みつつも、出来上がっているのは下町をストリップ小屋に置き換えた人情喜劇なのである。

 出てくる登場人物が皆、魅力的。世の中をどこかさめたような目で見ている池玲子、アル中で欲望の赴くままに暴れる芹明香、そして愛する女をアル中から救うこともできずにヒモに成り下がっている鬱憤を抱えている川谷拓三。。特に拓ボンの演技が素晴らしい。偽学生でストリップ小屋を内偵している姿から舞台にあがって、思わず女を抱いてしまうところまでは爆笑。ラストの廃人同様になって「オラァ、オラァ、人殺しぞよ!」と吠える演技は落ちるところまで落ちた男の悲しみを全身で表している。

 それに対し、芹明香のめちゃくちゃな無軌道な演技もすごい。葬式で「黒の舟唄」を歌いながら股を開きだすシーンは壮絶さまで感じる。藤原釜足*2と中島葵(名優、森雅之の娘さん)の師弟関係もほのぼのしたものだった。それから結婚費用を稼ぐためにストリップに挑戦する聾唖のカップル(下條アトム、森崎由紀)がよかった。音楽が聞こえないので踊ることができない女の子が踊れるようになっていき、子供を生んでいくというストーリーが話に群像劇の中で時間の流れをつけている。

 屋台の喧嘩シーンにノンクレジットで深作欣二渡瀬恒彦工藤栄一が出演。屋台をひっくり返した拓ボンに本気で蹴りを入れる深作欣二(それをマジ顔で止めているのは渡瀬恒彦)が見れます。この時期、一番忙しかったんでストレスたまってたんでしょうか。

監督:森崎東 脚本:山本英明松本功 企画:奈村協  撮影:古谷伸
音楽:広瀬健次郎 美術:吉村晟
キャスト:山城新伍池玲子芹明香カルーセル麻紀絵沢萠子、森崎由紀、藤原釜足、川谷拓三、下絛アトム、川地民夫、奈辺悟、多賀勝、中島葵、松井康子、白川みどり、舞砂里、内藤杏子、殿山泰司、北村英三、疋田泰盛、岡八郎鈴木康弘、蓑和田良太、汐路章那須伸太朗、丸平峰子、工藤栄一深作欣二渡瀬恒彦志賀勝片桐竜次

*1:設定では未だ「工事中」で男の留置場に入れられて大騒ぎになるというどこかで聞いたことあるようなシーンもある。

*2:この人は黒澤明の映画の常連で「隠し砦の三悪人」では出ずっぱりだった