ニワトリはハダシだ〜宴会やりましょ、宴会〜

niwatori


 今日、紹介するのは森崎東監督の「ニワトリはハダシだ」。森崎東監督の6年ぶりの新作です。山田洋次と並んで松竹の喜劇映画の旗手と呼ばれ、ファンも多い監督です。山田洋次との関係も深く「男はつらいよ」のテレビシリーズと映画版第一作は二人の共同脚本にもなっていますし、三作目の「男はつらいよ フーテンの寅」も監督しています。*1二本立てで上映されるプログラムピクチャアの監督で古巣の松竹を中心に東映、独立プロを転々として活動しています。今回の「ニワトリはハダシだ」も独立プロでの作品です。1927年生まれで御年78歳。2月13日に第七藝術劇場でやったトークショーを見てきたが、「今回の映画は若い女性がたくさん来てくれた。実にうれしい」とはしゃいでて、真に元気な爺さんです。

 海が見える町、舞鶴。少年サム(浜上竜也)は知的障害を持ちながらも元気に毎日を暮している。潜水夫のチチ(原田芳雄)と二人暮らしで施設に通っていた。チチはサムの将来を案じ、サムに潜水の仕事を覚えさせようとしていたが、サムは隙を見て逃げてしまう。逃げた先はわかっている。隣町に住むハハ(倍賞美津子)の家だ。チチとハハはサムの教育方針をめぐって妹の千春(守山玲愛)を連れて別居してしまったのだ。せっかくのサムの誕生日にも喧嘩をしてしまうチチにサムはうなり声をあげる。

 ハハは在日朝鮮人。ハハの母(李麗仙)は戦後すぐに朝鮮半島に帰ろうと船に乗り込んだが船が爆発沈没してしまった。世に言う浮島丸事件である。彼女は奇跡的に助かり、舞鶴に住み続けた。人種のことを話したハハにチチは「何人だろが、かまへん。ニワトリはハダシや!」と叫んで結婚をしてしまった。「ニワトリはハダシだ」は東北の民謡にある言葉で「わかりきったことのたとえ」といいう意味である。

 その頃、地元警察署では大きな事件が起こっていた。新検事長への昇任を目前とした灰原検事(岸部一徳)のベンツが盗まれたのである。このベンツは舞鶴暴力団、重山組の重山組長(笑福亭松之助)から贈られたもので、車の中には検察の汚職事件の証拠となる帳簿が入っていたのだ。大阪府警から派遣された“もやし”刑事の立花(加瀬亮)は地元の暴力刑事の丹波塩見三省)と車の捜索に向かう。一度見たものは何でも記憶してしまう特技を持つサムが車の絵を書きながら、盗まれたベンツのナンバーを繰り返しつぶやいているのに気づいた立花はロシア人の窃盗グループによって車を盗まれたことを突き止める。ところが困ったことにサムが覚えていたのはナンバーだけではなかった。中の帳簿の数字もばっちり覚えていたのだ。。。警察に連れて行こうとする立花の前に立ちふさがったのは施設の直子先生(肘井美佳)。実は彼女は立花の上司で今回の事件を担当している桜井(石橋蓮司)の娘だったのだ。。

 自分でストーリーを書いてても混乱しそうになるぐらいに人物関連図が複雑。実は灰原を告発しようとしている検事もいて(大阪高検の三井がモデルか?)登場人物は多い。脚本の近藤昭二さんが言うようにシーンのすべてが“係り結び”になってるんで伏線がぐちゃぐちゃになるので、かなりストーリーはわかりにくい。が、そうした欠点を吹っ飛ばす勢いがこの映画にあります。片時も静かなシーンがなく、常に誰かが動き、喋っている。山根貞男氏が森崎映画を「宴会映画」と称したのは本当で画面全体からざわざわとした雰囲気が伝わってくるのだ。監督の映画にかける情熱がスクリーンを通して観客をとらえようとしている。なんか見ててすごく楽しくなってくるのだ。

 サムを演じた浜上竜也がいい。天衣無縫に走りまくり、船からウンコして、大いに笑い、泣いて、うなり声もあげる。うなるときにすっごい目をしてるのだ、この子。妹役の守山玲愛ちゃんもとろけるようにかわいい。この作品がデビューになる肘井美佳。目をくるくる回してみたり、お酒を飲んで逆立ちしてみたり、派手にコケてみたり(本気でコケたみたい)と涙を目にためて怒鳴ったりとスクリーンをところ狭しと走り回る姿はとっても魅力的。それに対して受けの芝居に回った加瀬亮。ぼんやりとしているようでもどこか芯が強い新人刑事を好演。バンドエイドを貼ってくれた直子の顔をのぞきこんで「うん。俺も喜ぶ。」としれっと言ってしまうシーンも好きだ。塩見三省の暴力的なドキュン刑事っぷりも笑えた。本気で殴ってるな、あれは。この人を年寄り扱いするのにはためらいがあるが、原田芳雄ももう65歳。そうとは思えないほどの力強い肉体と野太い声はさすが。役者の鑑か。倍賞美津子も婆さんの役柄が増えたけど、相変わらずにパワフルだ。「うちの旦那や、あんたに関係ない」と直子の頬をぶったたくシーンにはドキッとした。元気な年寄りと言えば、今年80歳になる笑福亭松之助。いつもは少しの出演が多いが珍しく今回は出ずっぱりで食えない組長を楽しげに演じていました。

 少々の体制批判を味付けに基本は家族を描いた泥臭いコメディ。ちょっと感覚的に古いなと思うところもあるが、丁寧に撮っています。ラストに近づくにつれてわやくちゃになりますが、それもご愛嬌。ちなみにサムが海にするウンコですがもちろん、本物ではありません。作り物です。担当した美術の人(女性)は考えて20個近くも模造ウンコを作ったそうです。たかがウンコと言うなかれ、トークショーによるとウンコは森崎映画に必ず出てくるそうな。しかしトークショーの半分以上がウンコの話て。。なお森崎監督は次回作に向けて早くもロケハンに出かけているそうです。今度の舞台は尼崎。待ちましょう、待ちましょう。

監督:森崎東 製作総指揮:志摩敏樹 脚本:近藤昭二、森崎東 音楽:宇崎竜童、太田恵資、吉見征樹 撮影:浜田毅 美術:磯見俊裕 
キャスト:肘井美佳石橋蓮司余貴美子加瀬亮、浜上竜也、守山玲愛、河原さぶ不破万作岸部一徳柄本明三林京子露の五郎塩見三省、李麗仙、原田芳雄倍賞美津子笑福亭松之助

*1:男はつらいよ」で山田洋次が監督しなかったのは三作目と四作目の「新・男はつらいよ」の二作品。ちなみに四作目はテレビシリーズで演出を担当した小林俊一が監督。両作品とも不入りだったため、打ち切りも検討されたが山田監督が再びメガホンを取った「望郷編」が大ヒットになったために山田監督でシリーズ化が決定した。