今日、紹介するのは新文芸座で7月10日までやっていた中島貞夫映画祭から「にっぽん‘69 セックス猟奇地帯」。蓮實さんが傑作と絶賛していた「ポルノの女王 にっぽんSEX旅行」との二本立てでしたが、平日だと言うのに大入り満員で立ち見まで出ていました。世の中、エロばっかりやな(笑)。わざわざ京都から来たんが、一番のエロ坊主かもしれんけど。中島監督も来られてたらしいです。とにかく、大入り満員でなんかわからんかった。

 中島貞夫って監督は東映のプログラムピクチャーの担い手でポルノから任侠から実録から何でも撮りました。正直言って、その作品群は玉石混合。80年代以降の作品はつまらない作品も多いです。この人の本分は「893愚連隊」「脱獄広島殺人囚」「懲役太郎 まむしの兄弟」「狂った野獣」「暴動島根刑務所」のような低予算のプログラムピクチャーにあったと思います。深作、純彌と並んで相当に器用な監督で大作もこなしていますが、この人の面白さはそうしたところでなくて勢いだけでぐいぐい押していくところにあります。「狂った野獣」なんて短期間、低予算でストーリーもないようなめちゃくちゃな作品ですが、わくわくするほど面白い。特に松方弘樹と組んだ「脱獄広島殺人囚」「暴動島根刑務所」「暴力金脈」のような、かっこいいところなしで剥き出しの人間性を目の前に突きつける映画がめちゃくちゃ面白いのだ。出てくる奴らがギラギラしとるんだ、まぶしいぐらいに。
 
 実は東大出身でギリシャ劇をやってたインテリなんだが、東映に入ると東映京都に回された。「ギリシャ劇、言うことは時代劇やんけ」ということだったらしい。東映京都でプログラムピクチャーの担い手として活躍中で「仁義なき戦い」も当初はこの人で行く予定だったとか。脚本家の倉本聰とは親友で倉本の「前略おふくろ様」に室田日出男拓ボンを紹介しています。本来なら「遊撃の美学 中島貞夫」を参考にしながら、感想を書きたいのですが、もう一回刷り直してるとかでまだ買えてませんので、思い出しながら書きます。

 この「にっぽん69’セックス猟奇地帯」というのは69年当時の日本の風俗を切り取ったドキュメンタリーです。俗に言うエクスプロイテーション・フィルムって奴で言わば、キワモノ映画ですな。構成にルポライター竹中労が入っています。当時の竹中労は政治と風俗をクロス・オーバーしようとしてた時期で映画俳優の労働組合に首を突っ込んだり、「祇園祭」をプロデュースしようとしたりしています。曰く、「芸術はすべからく、反体制である」。その考えから参院革新自由連合を作ろうとしたりしましたが、どれもうまく行きませんでした。後に中島貞夫深作欣二笠原和夫と組んでサイレント映画時代の傑作「浪人街」をリメイクしようとしますが、考え方の違いから決裂します。竹中労について説明すると、キリがないんでこのへんにしておきますが、まあケッタイな映画です。最初に言うておきますが、あまり面白くありません。

 先日、「69 sixty nine」の感想でも述べたとおりに69年当時の日本は長らく隆盛を誇った学生運動が衰退しだし、日本が繁栄を謳歌し始めた頃でした。数年前から話し合いが進んでいた沖縄返還が決まったのもこの年でしたしね。そういう時代を背景にした、セックス裏事情が次々と西村晃のナレーションによって紹介されていきます。列挙しましょう。シンナー、刺青、飛田新地状況劇場(当時、27歳の唐十郎が出ている)、ゼロ次元、青姦、マゾヒステック、ストリッパー、ペインティング、トルコ風呂、整形手術の実情、エロ事師たち、そして沖縄の売春事情です。これが次々と紹介されるんですが、一つ一つがもう強烈でしんどい。

 ゼロ次元ってのはハプニング集団という奴で大川興行がさらに過激になったようなものと考えるとわかりやすい。「儀式」と称するストリート・パフォーマンスをやっており、銀座の町を日の丸背負って行進したり、ダッチワイフを使って若い男女が飛んだり跳ねたりしておった。(出産シーンの表現だったらしい。)「薔薇の葬列」にも出てたらしいので、私も見ていた筈なんだが全く覚えておらん。学生運動と連動して「儀式」を行ってそこそこ有名だったらしい。但し、この翌年にリーダーが逮捕されて、衰退しちゃったらしい。

 一番えぐかったのが整形手術の実情。隆鼻術、豊胸手術、二重まぶたの手術の様子が写されているのがこれが、えげつないのだ。プラスチックを鼻に無理やり押し込んだり、ポンプで何かを送り出しながら胸のシリコンを整えたり、まぶたをズタズタに切り込んでいく様子が延々と写されているのだ。この映像に整形手術について女性と高須みたいなオッサンのお喋りが重なるのだが、これが何とも他愛も無いあっけらかんとした話なんだ。アホといやあ、それまでだが考えようによってはこいつらはめちゃくちゃ勇気のある奴らなんかもしれない。そういやこの映画には彫り物をしてる女性も出てくる。彫り物ってのは大阪ではガマンが足りないと完成しないことから「ガマン」と言う。よくぞ、彫ったもんだ。もうプールもサウナもいけねえのに。

 もう一つ、えぐかったのがM男だろう。マゾの世界である。バーのカウンターを覗くとに男が寝そべってホステスさんに踏まれたり、頭の上で雑巾を絞られてる。このへんはまだ笑えるんだが、ホテルの一室で首輪に繋がれて足蹴にされたり、頭からなんかかけられたり、挙句の果てに小便を飲んだり(この人にとっちゃ、聖水)、便所の水を飲んだりするシーンでは思わず、下をむいちまった。その間、ずっとこのM男さんがマゾに対する思いと述べ続けており、頭がおかしくなりかけた。この人、実は「家畜人ヤプー」(最近、江川達也が漫画化した)を書いた沼正三って作家だった。この人、招待が不明で現職の判事さんだったとか言う噂もある。

工エエェェ(´д`)ェェエエ工工

こんなんに裁かれた犯罪者はマジで気の毒。。って書いたら失礼か。

 ブルーフィルムの撮影風景がなかなか微笑ましい。無人島についた男二人と女一人。どう見ても30歳を超えている女性がセーラー服に着替え始めて撮影開始。それを重く、西村晃がナレーションで説明する。・・いい時代だなあ。。なんとも牧歌的だ。変なものを並べるだけではさすがに映画は終わらんと思ったがラストは唐十郎にお越し願い、沖縄の売春婦についてレポート。黒人兵と日本人のハーフにインタビューをして、少しは政治的な意味をつけて映画は終了。(あ、オチまで書いちった。)

 映画としてはあんまり面白くないですが、当時の風俗史としてはかなり面白い作品だと思う。まあお好きな人は。。ということで。中島貞夫はこの後もセックスドキュメントを多く撮っているのでこんなん、好きなんやろなと思う。69年から35年立ちましたが、この映画に出てくる人たちは今現在、何をしてるんだろう?この年に乱闘騒ぎを起こした唐十郎はいまだに状況劇場やってるし、沼正三もゼロ次元の人もまだ生きてるみたい。ストリップ劇場も飛田新地も細々とだが、当時のままで存在する。新宿の街で堂々とシンナー吸ってた青年とか30歳ぐらいで死ぬとか言ってたペイントのお姉ちゃんとかブルーフィルムの”女優”の方々も皆様、お元気なのでしょうか?