靖国 YASUKUNI

靖国


 昔、東京に暮していた時期に靖国神社に数回行ったことがある。思想的にどうこう思って行ったわけではないが、なんか東京のド真ん中にあれだけ広々とした神社があるということとジョン・ウーの映画に出てくるような白い鳩がとても珍しく思えたからで4,5回は行ってたと思う。

 初めて行った時には靖国神社内の資料館に行った。展示はその名も「近代日本、かく戦えり」。いわゆる、近代の日本の戦争を扱った展示であった。私はどっちかというと保守的な人間ではっきり言うと中国も韓国も大嫌いだし、(中国人、韓国人とは言わないよ)共産党横路孝弘加藤紘一朝日新聞毎日新聞もついでに山崎拓も吐き気がするほど嫌いだが、この展示には違和感たっぷりであった。そこにあるのは、日本軍が如何に強かったか、それのみであり、戦争によりこれだけの戦死者が出たとか、侵略したアジア人への配慮もひとかけらもなく、太平洋戦争の展示も敗戦国のものではなかった。案内してる神社の人も勝ってる頃の話しかしないし、アジア解放の大義とか特攻隊が素晴らしいとか、自衛戦争だったとか書いてない。そこが「靖国神社に参拝するなら、勉強しなさい!学校では教えてくれないよ」と劇中の老人が大絶賛する「遊就館」であった。確かにこんなことは学校では教えんわ。

 正直、あんまり面白い作品ではなかった反日と言えば、反日なんだろうけど、監督が在日中国人だったら、これぐらいの描写はするでしょう。題材は面白いと思うんだけどね。戦前、靖国神社靖国刀という軍刀を作っていた。刀匠の刈谷直治氏は数少ない、当時を知る人物。90歳という高齢ながら、現役の刀匠で自作の刀に「靖国」と名づけ(本人曰く「無許可」)、靖国神社に奉納している。この人物へのインタビューと8月15日の靖国神社の模様が主な構成。

 面白いドキュメンタリーを取る秘訣というのは、その題材を体現するような人物を被写体にすることだと思う。本作、それには成功してるのだが、懐に入るまでは至っていない。被写体にするのに成功したのは、刈谷さんが単にいい人だったからであり、説き伏せたからではない。刈谷さんが終始、和やかなのは監督をお客さん扱いしてからであり、監督の質問に対して無言なのも遠慮しているからだろう。人の気持ちを知る時には、まず自分の意見を述べて、それに対して意見を求める。会話ってもんはそういうもんだろう。

 劇中で刈谷さんが小泉首相(当時)の靖国参拝に対してどう思うか?と監督に聞くシーンがあるが、監督はそれに答えずに「刈谷さんはどうですか?」と逆に返している。「質問に質問で返すな!」と空手で頭の上半分を吹き飛ばしたくなるが、これがこの映画の欠点でこの映画、メッセージ性が皆無でプロパガンダ映画にもなっとらんのだ。ドキュメンタリーは中立の立場から物事を映し出すだけで、観客が何を受け取るかは観客にゆだねる、かつて今村昌平が「ドキュメンタリーは中立ではないし、そうある必要もない」と「人間蒸発」で喝破した、古臭い原則論に監督は縛られとんのちゃうやろか、と疑いたくなる。それから、ついでに書いておくが、撮影は監督と堀田泰寛というJSCのカメラマンが担当しているが、インタビュー時の撮影がひどい。画像が粗いのは許すが、顔の半分が切れてたり、突然アップになったり、と見ておれんかった。たぶん、このシーンは監督だと思うが、なんとかならんかったのか?

 靖国問題の一番の問題点は靖国神社の性格であろう。この作品が映し出す8月15日の靖国神社は、小泉の言う、国家のために亡くなった方の追悼をする施設とはかけ離れたものである。日本軍の軍服に身を包み、天皇万歳を叫ぶ強面のヤクザ、境内のあちこちに立つ、八紘一宇、鬼畜米英と書かれた幟、小泉の靖国参拝を支持する米国人に「毛唐は出て行け!」と怒鳴るヤクザ。。そして遊就館の展示。坊さんが言うように靖国神社神社本庁支配下にもない、単立宗教法人であるので、どこの監督下でもない。しかし、その存在は政治と直結する機関であり、今の靖国神社の形に政治が全く無関係ってなわけがないのだ。公開間近になって、政治的圧力がかかったのはそういうこと。

 靖国の映像で一番すごかったのは、靖国参拝反対を叫んだ青年に対する仕打ちであろう。屈強なおっとろしげな兄ちゃんがとびかかって、そのまま木立の中でヘッドロック、というよりチョーク・スリーパー!ほっといたら、死んでたぞ!その後、数人で追い出しにかかる。「なんだ、てめえら!中国人か!中国人は中国に帰れ!」と30回ぐらい繰り返し、怒鳴りまくるおっさん。カメラはそれをずっと後ろから追いかける。そのおっさんも後ろから追いかけてるカメラが在日中国人の映画だとは知らんかったろう。警察が急いで駆けつけて、若者を連れ出そうとするが、言うことをきかない。遂にキレたヤーさんが鼻っ柱をビビビ!(水木しげる風)鼻血が出ても、高い声で叫び続ける兄ちゃん。。すまんが、大いに笑わせてもらった。この兄ちゃん、今は左翼に燃えているが、こいつもひょっとしたら今は国粋少年になってるかもな。

 しかし靖国とは不思議なところである。そういったおとろしいおじさんがいる反面、普通に戦争で親族を亡くしたお母さんたちが雑談してたり、デートスポットなのかカップルが来てたりする。骨董市が立つこともあるしね。すべてを飲み込んでそこに存在する。日本国内のみならず、世界からその動きが注目されるすごい神社だ。少なくとも、影響力では福田総理よりも上だ。

 最後に上映を巡るドタバタについて。結果的に映画の宣伝となってしまったが、どう理由つけてもあれは検閲であろう。中国の資本に文化庁補助金が入るのはどうかとは思わんでもないが、内容により補助にふさわしいかどうか決定するて。無邪気な正義感が戦争への道だってな、スポンサーへの配慮かなんか知らんが、君は国民の政治家なんやで。権力者にすり寄るのがお得意みたいですが、あんたのツラじゃ無理だ、ねえ稲田センセ

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