深浦加奈子、死去

tetorapot2008-08-27


 深浦加奈子が亡くなった。享年48歳。命を奪ったのは、癌であった。5年前に癌が見つかり、それからの5年間は闘病しながらの役者生活。晩年には癌が肺に転移していたという。最後の仕事が原爆のドキュメンタリーのナレーションで無理をおしての出演であったというエピソードが泣かせる。

 数々のドラマに出ている女優さんだが、私が印象に残っている役柄は「私の青空」での利根川千代子役である。故郷で結婚し、平穏に暮らそうとしている男を結婚式場から強引に連れ去り、くすぶっていたボクサーの夢をかなえさせるために共に渡米。逃げられた男を追ってきた婚約者のなずな、彼女のおなかには彼の子供がいたのだが、彼が必ず帰ってきてくれることを信じ、母親になっていた、の非難を背中に受けながら、健人にチャンピオンを取らせるためにひたすら尽くす女を演じた。

 所謂、物語の発端を作った人で、悪役になるのだが、内館牧子はそう描かず、好きな男の夢をかなえさせるために尽くす、かわいらしい女として描いた。健人は千代子を愛しておらず、引きずられるように見せて利用しているだけなのである。そうしたことも充分にわかっている、そうした可愛くも哀しい女を演じて見せた。何か切羽詰まった顔つきで少し涙目で高い声で叫ぶ演技が印象に残っている。

 ドラマでは他に「秀吉」「風子のラーメン」が印象に残っている。「秀吉」では秀吉の姉さんをやったんだよな。映画では「バトル・ロワイアル」でのバスガイド役や「たそがれ清兵衛」での義姉役を覚えている。

 笑顔も素敵であったが、泣きのうまい女優さんであった。少し意地悪な女性を演じることが多かったように思うが、ラストでどっと崩れてからの泣きがうまかった。わあわあ泣くのではなく、しゃくりあげながら、涙をこらえきれずに泣くような、泣きであった。

 お年を召した映画人や役者がなくなるのも悲しいが、替えの聞かない役者が若くして亡くなるのはもっと悲しい。この年代でのうまい女優は少ないので、さびしく感じる。遺作となったのは「ぼくのおばあちゃん」。共演は「私の青空」にも出てた菅井きん。ぎりぎりまで命を燃やし続けた女優を味わおう。合掌。

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たそがれ清兵衛 [DVD]

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