悪名桜 1966年 大映京都

☆悪名桜 4/14 シネ・ヌーヴォ RESPECT田中徳三
★★★
→シネ・ヌーヴォ独自の企画「RESPECT田中徳三」。色々と忙しくやっと足を運べたのは最終日だけであった。大映の関係者は元気な方が多いのだが、田中徳三監督も86歳である。往時の大映を知る人も少なくなっただけにシネ・ヌーヴォがインタビューを行い、編集し、そして自社で出版した(これが一番えらい!)ことに素直に敬意を表したい。何も新しい映画を作ることだけが文化普及ではないのだ。キネマ旬報が映画史をつづる作業を辞めてしまい、ただの映画宣伝雑誌に成り下がってしまった現在、こうした作業は採算度外視のワイズ出版か熱心な映画ファンに頼ることが多くなってしまった。戦前の映画史にしてももし、竹中労が「日本映画縦断」を10年連載できてたらかなり変わってたもんになってただろうに。。まあ、それはいいとして。「悪名」をはじめとして大映で数々の名作を発表したアルチザンであった田中徳三市川雷蔵勝新太郎とも仕事を超えて親交があり、誰もに愛された幸せな監督であった田中監督の聞き書きがまとめられたことは実に映画史への貢献が大である。えらすぎだ。

 さて本作は「悪名」シリーズ第12作。「悪名」シリーズのテーマは何かと言うとやくざ否定である。それは田中監督自身が完結作と決めていた「続・悪名」にしっかり現れている。朝吉とモートルの貞(3作からは弟の清次)は町の顔役で喧嘩が強いが、それが向けられるのはヤクザであり、その裏にいる薄汚い悪人どもである。本作ではヤクザに憧れる少年と彼を利用しようとするヤクザ、そして子供よりも世間体を気にする両親が描かれる。新興ヤクザの親分をふてぶてしく演じる藤岡琢也もよいが、ヤクザと対立するのが厭で息子を見棄ててしまう多々良純の事なかれ主義がえげつない。こんな親やったら、そら酒井修もグレるわ。

 それに加えて故郷から朝吉の嫁になりたいとやってくる菊枝、これが市原悦子。今でこそ、完全なお婆さんキャラで若い頃からおばちゃん役が多かったが、本作ではしっかり者のきびきびとした娘さんを好演している。70年代に入ってから映画では中島貞夫の「木枯し紋次郎 関わりござんせん」の紋次郎の姉役や「青春の殺人者」の母親役で強烈な印象を残した。「うなぎ」の気が狂った母親も好きよ。

 一番好きなのは菊枝が朝吉の家に住み込むことを知った清次が自分は追い出されるのだ、と勘違いして朝吉と大喧嘩するシーン。男の嫉妬はみっともない。早口でまくし立て、とスクっと立ち上がって出て行ってしまう田宮二郎のしぐさがなんともおかしい。田宮二郎はモートルの貞、清次役にハマっており、後年に勝新太郎が勝プロで「悪名」をリメイクした時にモートルの貞役に使わなかった(北大路欣也が起用された)ことを随分、恨んでいた。勝は「おまえは立派な俳優なんだから、いつまでもモートルの貞をやらなくてもいい」となだめたそうだが、見棄てられたように感じたらしい。田宮二郎にとって勝新太郎はいつまでも兄貴だったのだ。

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