岸田今日子、死去
岸田今日子が亡くなった。近年までお元気に仕事をされていたので、入院されていたことも知らなかった。残念でならない。彼女を知ったのは「とんねるずのみなさんのおかげです」の保毛尾田保毛男(ほもおだほもおと読む。ベタだが、超インパクトのある名前だ)の姉役だろう。これが「傷だらけの天使」のパロディであることを知ったのは後年のこと。活動の中心は舞台であったが、映画、ドラマ、声優、ナレーションと様々な分野で活躍した。特にナレーションはいたるところでやっていた。
何が一番印象深かったかを挙げるのは難しい。その作品群は多岐にわたり、市川箟、増村保造、山本薩夫、野村芳太郎、深作欣二、中島貞夫、新藤兼人と様々な映画監督の作品に出演した。監督に恵まれた。。というより存在感に監督が惹かれたというべきか。存在感を持った、替えのきかない女優さんであった。「岸田今日子がやらないと成立しない」そんな役柄、まるで脚本家が彼女にあてがきしたような役柄が多かった。存在感が半端じゃなかった。彼女にしかできなかった役柄、その際たるは「傷だらけの天使」の所長役だろう。非情な性格の持ち主だがどこかクールになりきれない、女らしさも内包した大人の女性を見事に演じて見せた。最高の当たり役だろう。今年亡くなった丹波哲郎、藤岡琢也もそうした存在感を持った俳優であった。昔の日本映画にはそうした個性的な俳優がいたのだ。
日本映画の全盛期には大映でいい仕事をした。増村保造「『女の小箱』より 夫が見た」、市川箟「破戒」「黒い十人の女」山本薩夫「忍びの者」などが印象深い。そして70年代以降の大作映画には欠かせない女優になった。「犬神家の一族」、「戦争と人間」、「日本の首領 野望編」、「この子の七つのお祝に」で存在感を発揮した。90年代以降はセルフパロディ気味にケレン芝居で楽しませてくれた「学校の怪談2」や「八つ墓村」が思い出される。先に挙げたコント番組もそうだが、本人が楽しんでやっているのがわかるほど余裕のある芝居であった。時代時代に活躍を果たした名女優であった。
出演作品を見ると市川箟の作品が圧倒的に多い。「破戒」の役柄なんてよかった。すべてを告白して自らも運動に加わると誓う市川雷蔵に「おやめなさい」と諭す芝居など絶品であった。「黒い十人の女」の女を感じさせない女性ディレクターもよかった。
自らの存在感に磨きをかけて、役を呼び込む。監督の求める芝居を誰よりも理解して脇役できっちり輝き、スターを押し上げる。「スターは脇役の出来がすべてや」とはマキノ雅弘の名言であるが、そうした俳優、女優で日本映画は築かれてきたのだ。享年76歳。年に不足はないが、晩年まで輝き続けた女優だったので、その訃報にひどく喪失感を感じる。合掌。
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