武士の一分

★武士の一分 12/9 MOVIX京都シアター12
★★★★
→いつから三部作になったか知らんが、山田洋次時代劇三部作のラストを飾る作品。この日は檀れいさんの舞台挨拶つき。宝塚歌劇出身の綺麗な女優さん。若い頃の藤純子に似てると思うのは私だけでしょうか。松竹もいい女優さん入れたねえ。松竹はここ最近、女優育成に失敗しております(というか女優がいませんでしたが。第二の長澤まさみを目指すためか海老瀬はなを売り出し中ですが、そんなに空きのあるポストではないのでどうなることやら。。)ので、大事に育ててほしいものです。この日も赤いドレスで登場。大変にお美しゅうございました。司会(KBS京都のアナウンサー 多分、竹内 弘一)に「檀さんにとっての一分は何ですか?」と聞かれた時に「あなたにとってはどうですか?」と切り返して司会に汗をかかしておられました。受け答えもしっかりしてるし、さすが元宝塚だなと思った次第。

 檀さんの可憐さ、凛々しさも目を惹いたが、注目はやはり木村拓哉である。主演ってのは演技がうまい、下手かなんてのは二の次でやはり雰囲気である。中島貞夫が言っていたが主演を演じられる俳優ってのは常人でない雰囲気、オーラが必要で、観客がこいつは他のキャラクターとは違うな、と思わせるものが必要なのだ。そうしたキャラを演じられる俳優でないと主人公に託した監督の分厚い思いを観客に伝えられないのだ。キムタクって俳優は映画に出る機会は少なかったがドラマ*1やコントでミステリアスな色気を感じさせられる人で主演向きだな、とは思っていた。むしろ脇はできないと思う。

 その人と山田洋次が組んでどんな映画になるのか、むしろ水と油じゃねえかと思った。が、キムタクは本作では無欲で静かに生きることを願う平凡な侍を演じるためにあえて、その色気を封印。茶目っ気だけを残して平凡な侍に徹していた。時代劇らしくない演技と言えばそうなのだが、山田洋次がキムタクを起用した狙いは、そのらしくない演技であろうし、大体、現代劇にこだわり続けてきた山田が従前の時代劇を撮るわけがないのは前二作でも実証済みであろう。大体、従前の時代劇を見たい人はいくらでも他にあるんだから、そんなことで目くじら立てて怒る人の気持ちが私にはさっぱりわからない。

閑話休題。まあこうしたキムタクもありか、と思いながら見ていたが、妻を詰問するシーンで演技の質がガラリと変わる。もはや光を失ったはずの目でギラリと妻をにらみつける。妻はその目におびえて、言い訳もできずに離縁を受け入れてしまうのだ。どんな平凡な人にも、命にかえてもゆずれないもの、「一分」がある。狂気にも似た怒りの感情が芽生えるのである。それを盲目になった者の目で表す山田洋次の演出もすごいし、平凡な侍がむき出す狂気を垣間見せたキムタクの演技もすごい。「たそがれ清兵衛」では真田広之田中泯のやり取りから立会いまでのシーンがすごかったが、本作で一番ドキリとさせられたのはこのシーンであった。

 作品のできばえはなかなかによろしい。短編の映画化だけあって登場人物は少なく、ストーリーはきわめて簡潔。ごてごてとキャラクターの背景を塗りたがる山田洋次にしては、すっきりと仕上げている。舞台を初夏から冬に設定し、庭にある木で季節感をうまく出しているし、庭から見える山々が大変に美しい。ここ最近の映画ではラストで作品の余韻を崩していたが、本作ではそれに成功しているので、見終わった後の感じは悪くない。

 下人を演じた笹野高史も褒めねばならない。この人も「男はつらいよ」の後期シリーズを支えた山田作品の常連だが、本作では出ずっぱりである。キムタク、桃井かおりとのやり取りが楽しいし、受けの芝居の面白さをたっぷり見せてくれている。重要な脇役からコメディリリーフまで演じられる、昔で言うと山茶花究のような演技ができる俳優になってきた。うむ、すばらしい。悪役を演じた坂東三津五郎もよかった。山田洋次は悪を描くのが下手な人なので、この人の描き方も中途半端になるのではないか思ったが、簡潔にただただ傲慢で卑劣な悪役を気持ちよく演じていた。河津清三郎山形勲のようなワイドな悪役というより、安部徹のようなスパッとした悪人であった。東映の映画見てない人にはわからん例えだが、まあそういうことです。でも。。やっぱりかっこいいんだよな。ワルかっこいい、というか。彼の身の処し方と主人公の生き方が対になっているのですな。いつもながら、くどい演技を飽きずに見せる桃井かおりも見事。

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*1:2001年の年末にやった「忠臣蔵1/47」などなかなかよかった