バッシング

★バッシング 7/8 シネ・ヌーヴォ
★★★
→キッツイ映画だった。最初に書いておくけど、これは占部さんの映画です。顔が汚い。多分、すっぴんだ。役作りも半ばだと思うが、ちとすごい。なんか晩年の中山千夏みたいだ。(死んでません)この方、私生活も相当に荒れておいでではないか、と邪推してしまった。

 私がこの人を見たのは「ほんまもん」だった。このドラマも相当ひどかったが、大雨の日に「私の母親は誰なの?私は知りたいのよ〜」と目をむいて叫ぶ占部さんも相当にキツかった。正直、「何、この人」と思ったのは事実だ。「歩く、人」で林泰文の彼女をやってたが、これはよかった。暖かく、彼氏を抱きしめる彼女は「麻雀放浪記」の大竹しのぶばりに可愛らしい女性で、「あ、いい演技するじゃん」と見直した。

 題材になっているのはイラク人質事件の後に起こったバッシングだが、事件をモデルにした映画と言っても映画と事件は無関係で同列で論じられるものではない。映画はいろんな人が見に来るから、こういう社会派を謳った映画は「映画を見て映画以外のことで語りたい」人もいっぱい見に来るわけだ。私が見た時にもプロ市民っぽい人が見に来てたよ。当ブログは映画について語るところだから、どうでもいいけど。ただ、映画を見て何を思うかは観客の勝手だが、監督が映画以上に事件についてくどくど語っちゃ駄目

 占部房子演じる主人公に寄り添えるか、と言うと俺は寄り添えなかった。さっぱり理解できなかった。が、人間は色々で私の後方に号泣してた女性もいた。むしろ占部さんを巡る状況、寄り添える対象はやはりその家族だろう。北海道の田舎町の工場に勤める父親、そして娘をさん付けで呼ぶ奥さん、つまり後妻さんだな、これが大塚寧々。言わば身内であって身内でないような感じ。うまく演じました。占部さんはこの後妻さんとあまりうまく行ってない。娘が街を挙げてのバッシングに遭う中で大塚さんはひたすら耐える。「待つのよ。時間が全てを解決する」と我慢して懸命に生きる大塚さんの方が思いいれがしやすい。

 街を挙げてのバッシング模様がえげつない。これは今村昌平の描く田舎だな。執拗に直接的、間接的な手段で敵をじわじわと追い込んでいく。家族は消耗する一方で占部さんは平然と生活を続ける。家族を痛めつけているのは自分たちなのに、家族を苦しめている占部さんに対する怒りが膨らみ、さらに攻撃は執拗になって、一番慰めてもらいたい時に再会したかつての恋人はとどめをさすように「おまえは何もわかってない」と罵倒しまくる。

 しかし占部さんはめげない。後半の展開はちとえげつない。ラストの独白も出来すぎだとは思う。でも落ちこぼれの妄執というか、自分がやっとつかんだものを握る手の力というのはわかるような気がした。

 占部さんがおでんが何回も買いに行く。汁たっぷりに持って帰る様は終電でおでんを車内で食べて顰蹙をかっていた東電OLを思い出す。ラストではおでんも売ってもらえなくなって、町の誰もが見放した彼女がアメリカ生まれのマクドを食べていたさまはなかなかシャレがきいていた。

映画監督小林政広の日記

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歩く、人 [DVD]

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東電OL殺人事件 (新潮文庫)

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