死者の書
★死者の書 7/16 みなみ会館
★★★
→日本を代表する人形アニメーション作家川本喜八郎の最新作。高校時代、吉川英治の小説を愛読していた私にとって川本喜八郎と言えばNHKで放映していた「新・平家物語」である。毎週、楽しみに見ていた。後に再放送で放映された人形劇三国志(82年から84年に放映。若き日の島田紳助・松本竜介が進行をしていた。二人の人形もあったが、紳助の人形が気味悪いほど似ている。当時、二人はコンビを組んでおり、服装はつなぎだった)も印象的だが、やはりリアルタイムで見た「新・平家物語」をよく覚えている。
民俗学者・折口信夫(男色家でもあった)の同名小説の映画化で奈良時代を舞台にした、怨霊と藤原家の娘を描いた不思議な映画であった。この時代の歴史を知らなくても、映画の始まりに詳細な寺田農のナレーションによる時代状況と舞台となった二上山、当麻寺の説明がされるので大丈夫であるが、天武天皇の死後起こった大津皇子の処刑や奈良時代の大仏ができる直前の政治状況、大伴家持、恵美押勝について知っているともっと楽しめると思う。藤原京から平城京までの歴史は激動であり、常に政情は不安定であった。疫病や有力豪族の反乱が頻発し、人々は仏教に救いを求めた。大変な苦労を重ねながらも大仏が建立されたのもわかるような気がする。
川本監督は、人間の執心と悟りを最も深く表現できるのは人形であると考え、アニメーション化を思い立ったと語っている。映画を見終わってから思ったが、確かに最もである。怨霊を実際のドラマで描いても嘘っぽく見えてしまう。それならば、人間の心の動きをじっくり描く人形浄瑠璃のように、人間を深く掘りさげたドラマをじっくりやってみる。ストーリーは極めて簡潔でゆったりとしたテンポで描いている。後半、少し寝てしまったが、徐々に大津皇子に惹かれて行く郎女(いらつめ)をきっちり描いていた。そして當麻寺に残る當麻曼荼羅の伝説となっていく。今年、御年81歳の川本喜八郎。まだまだ健在である。
主要登場人物だけでなく、下人や街角に立つ商人や芸人も一人一人、顔が全く違い、丁寧な仕事ぶりに好感が持てる。ちょこまかとした動き方もコミカルで楽しいし、黒柳徹子の語り部のお婆も面白い。つまみ出される時に柱にしがみついたりと茶目っ気もある。魂乞のシーンや郎女の無事を祈って下女たちが足踏みするシーンも印象的だ。
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