うるわしの映画検定〜映画人口の底辺な皆様に捧ぐ〜

 映画検定を受けてきた。会場は神戸の元町から歩いて10分ほどの神戸山手大学。神戸の人には悪いが、初めて聞く学校やわ。せっかく、元町まで行くのだから南京町で中華でも食うべえ、とお早めのご出立。雨がしょぼしょぼする日曜日。出かけたくねえなあ、、と思うが10時過ぎに飛び出す。元町まで国鉄で1時間ほど。汽車の中で勉強しようとテキストを開くも、全然頭に入らない。うとうととしているうちに電車は大阪を過ぎ、尼崎、西宮、六甲道と過ぎ、気がつけば元町。3級の試験が始まるまではまだ1時間半もある。まずは南京町だな、とフラリと出かける。

 南京町は元町から数分。なに、初めての場所ではない。お仕事のお供で昨年の師走にも行ったばかりだ。師走の平日。そんな日に仕事休んだ人が溢れ返っているようでは関西はもう駄目だ。いつもの混雑振りがどこぞ、という感じで気持ちよく空いておった。その前は数年前のゴールデンウィーク。この時の混雑振りは苦い思い出となっている。とても食べ歩きできる雰囲気ではない。ガラガラの時も混雑している時も見ているのだが、日曜日なれど雨が降っているとのことで人は多いものの行列はできていない。手近な店で点心と海鮮五目やきそばをたしなむ。美味。これだけでも元町まで来た甲斐があったというもの。

 満腹なのだが、デザートにココナッツミルクを頼む。愛想のかけらもない、デブな娘が持ってきたのでタピオカを楽しみながら堪能する。ココナッツミルクは好きだ。中華を食べるときには必ず注文する。店も混んできたので出ようとするとおばさんがココナッツミルクを持ってやってきた。「ごめんな、兄ちゃん。さっきのやつは量が少なかったんや。これサービスや。もう一つ飲んでって」おお、ラッキー!とありがたくいただく。勘定をすませて、外に出てから気づいた。ココナッツミルク、勘定に入れるの忘れてやがんの。これだけでも今日は勝ちだな。何が勝ちなのかわからんが、とにかく得した気分になっていた。

 喫茶店でテキストを読んでいるうちにいい時間になったので、会場に出発している。山手とついてるだけあって、会場は高台にある。傘を差して、坂を上り始めて異変に気がついた。満腹のところにココナッツミルクを二杯も飲んだものだから、腹ががぽがぽになっていた。苦しい。死にそうだ。それに加え、神戸老舗のにしむら珈琲のカフェ・ラテはどんぶりみたいな入れ物に入っていた。もう推して知るべし満腹の時に歩くと腹ががぽがぽ言うことをこの時、初めて知った。正直、坂の途中で帰ろうかと思ったが、あまりにもアホらしい。ついた時にはもはや試験はどうでもよくなっていた。

 前置きが随分長くなった。こんな試験、誰が一体受けるのか、もしかしたらガラガラじゃないかと思うも、会場はほぼ満員。キネ旬編集部曰くの「映画人口の底辺」(映画秘宝7月号の「ウエダハジメの地獄の映画観光」を参考)の人々が大勢集まっていた。客層は男性陣が多く、若い頃に「タワーリング・インフェルノ」でスティーブ・マックイーンのファンになるもうっかり新世界東映東映ポルノを見てしまい、池玲子杉本美樹の密かなファンだったりするおじ様達、なんのこっちゃわかりませんが、70年代に青春を迎えた壮年期の男性で会場は満杯だったりするのだった。おばさんの数が少ないのは、やはりこれが韓国映画検定でないからだろうか。韓国ドラマ検定とかあったら、おばさんだらけになるんだろ、誰かやんねえかな。テキストを読みふけるおじ様達を見て、検定商売ってのはいい商売だなとぼんやりと思う。

 この日は全国で1万人近くが受けており、東京では劇団ひとりも受けとったらしい。私が受けたのは2級と3級。予想通り、日本映画の問題はすらすらと解けたが、洋画の問題がさっぱりわからん。聞いたことのない名前が並んでるのでもう検討もつかん。6割ボーダーならば大丈夫だろうが7割ならば自信がない。

しかしである。

問題を解いている間、とっても楽しかったことを告白しておこう。おそらく世間の人はこんなん知らんだろうと思う問題、2級の問題でフランキー堺の出ている映画を選ぶ問題があったが、正解は「喜劇・命のお値段」。前田陽一監督作品でフランキーは偽医者に扮し、財津一郎を相棒で岡田茉莉子が出ていた。2年前にシネ・ヌーヴォで見た。こんなん、誰も知らんやろ、と心中でほくそ笑んでおった

 こうしたマニア心をくすぐる問題が満載でアホくさいのだが思った以上に心地よいのだ。多分、私がわからん問題でほくそ笑んでいた人が会場にもうようよおったに違いない。どんなに控えめな人間にも桂枝雀風に言う「わったくしが」がある。これだけは負けねえ!と心中密かにうぬぼれているもんがあるのだ。そうした意識をうまく利用しているのが、検定商売なんだろう。万事において超控えめな私でもすっぽりハマった。それに加え、試験が終わったあとの、あのうきうきするような開放感までついてくる。雨もやんで晴れ間が見えてきた空の下、パキパキに気分よく私は帰途に着いた。1級も受けるど!映画のことはおっちゃんに任しとけ!

とかエラそうなこと言うてて落ちてたらかっこわるすぎだ