妻をめとらば ‐晶子と鉄幹‐

新歌舞伎座


6月24日、新歌舞伎座藤山直美主演の「妻をめとらば ‐晶子と鉄幹‐」を見る。脚本は「まんてん」のマキノノゾミ。明治時代を舞台に与謝野鉄幹、晶子夫妻を描いた作品だが、すごく面白かった。藤山直美の芝居を見るのは二回目だが、早口で畳み掛けるようにポンポンと台詞が飛び出す迫力はやはり生で味わいたい。アドリブ満点で会場を笑いの渦に巻き込んでいた。共演者も思わず笑ってしまい、藤山さんにツッコまれていた。

 与謝野晶子という人は世間一般には歌人としてイメージが強いが、11人のこどもを育てたおかあちゃんでもあった。舞台で描かれているように夫の鉄幹はあてにならん人だったので、歌だけでなく、新聞連載、源氏物語の現代語訳、評論、女性運動と様々な活動に奮闘し、後年には文部省と一戦交え、男女共学の文化学院まで設立しているエネルギッシュな女性であったのだ。藤山直美にぴったりの役柄で強い女性を楽しそうに演じていた。それに対し、鉄幹を演じるのは香川照之。自らを老いぼれと称し、人生をついでに生きているみたいな生き方をする旦那に晶子は我慢がならない。実際の鉄幹も「明星」を舞台に浪漫派の第一人者として活躍した前半生に比べると後半生はすこぶるふるわない。後に京都から選挙に出馬するもあっさり落ちたりしている。駄目オヤジである。香川照之はこうした男がやっぱりうまい。終盤の藤山直美との語りは絶品である。

 石川啄木北原白秋、平野萬里、佐藤春夫と言った明治の文人大逆事件の管野須賀子も幽霊になって登場し、後年に晶子と激しい論争をかわす平塚雷鳥も出てくる賑やかな舞台になっている。平塚雷鳥を演じた田中美里も少しバカっぽい無邪気な感じで面白かった。舞台は金がかかるが、やっぱり見に行く価値あり。また機会見つけて行こう。