力道山

力道山 3/21動物園前シネフェスタ4Screen4
★★★
→力作だとは思うし、力道山を戦後の復興していく日本になぞらえた描き方は悪くない。朝鮮人であるというだけで不当に差別された力道山が髷を切り落とし、プロレスラーとしてやがて日本の英雄となる。その生き様をたっぷり2時間半かけて描いており、見ごたえは充分である。昭和という時代背景を丁寧に描いており、力道山を通して見た昭和史としても楽しむことができる。

 しかし、ドラマが弱い。後半はしんどい。そのドラマの弱さは脇役の存在の希薄さにある。後半の大きな山場となる、大恩人である藤竜也との対立、そして中谷美紀演じる妻との別れが時間を多く割いて描いている割にはちっとも心に残らないのだ。特に中谷美紀の描き方は平凡でちと可愛そうであった。*1私はそんなに好きな女優ではないが、忍従するだけの女を演じさせるのには勿体無いと思う。藤竜也にしてももっとねっとりとした厭らしさも出せる濃い俳優なのに、妙にさっぱりと描かれていて不満が残った。藤竜也のモデルは猪野健治の「興行界の顔役」にも登場する永田貞雄。力道山との対立はほぼ史実の通りでよく調べたと思う。それから力道山に弟子入りする在日の青年や同胞の焼肉屋も重要な役柄なのに、全く振るわない。日本人俳優でよかったのは、チンピラを演じた山本太郎トニー谷を彷彿とさせるキャバレーの芸人を演じたマギーぐらいか。

 力道山を演じたのは「シルミド」で強烈な印象を残したソル・ギョング。体重を28キロ増量し、プロレスのシーンも吹き替えなしでよく頑張っている。しかも台詞はほぼ全編日本語。撮影中に毎日5,6時間かけて特訓したらしく、これが一番大変だったようだ。オファーがあったときには「私には演じる自信はありません。チェ・ミンシクさんの方が向いてる」と断ったとか。いくらチェ・ミンシクでも力道山は無理だろう。。いや何とかしたか?

 なお力道山のライバルである東富士を演じたのは故・橋本真也。人柄円満と言われた東富士の雰囲気をよく出しているし、髷も恐ろしくよく似合う。張り手を駆使してのレスリングで相撲取り出身のレスラーらしさを見せたのはさすが本職と思わせた。敵をノックアウトした時に見せる、人懐っこい笑みを見た時には往年の橋本を思い出し、思わず目頭が熱くなった。

力道山 (ヴィレッジブックス)

力道山 (ヴィレッジブックス)

力道山と日本人

力道山と日本人

力道山と日本プロレス史

力道山と日本プロレス史

*2

興行界の顔役 (ちくま文庫)

興行界の顔役 (ちくま文庫)

*3

東京アンダーワールド (角川文庫)

東京アンダーワールド (角川文庫)

*4

必殺の空手チョップ 今 蘇る!力道山 ~伝説の格闘王 [DVD]

必殺の空手チョップ 今 蘇る!力道山 ~伝説の格闘王 [DVD]

ルー・テーズ対力道山 世界選手権争奪戦 [DVD]

ルー・テーズ対力道山 世界選手権争奪戦 [DVD]

*1:現実では、最初の妻とはアメリカ遠征直後に離婚している

*2:力道山アメリカ遠征についてはこの本が詳しい。「力道山演義」とも言えるべき本でホンマか嘘かよくわからんエピソード満載ですが、本作ですっぽり抜けている部分を全部書いてるので、補完する意味でもお薦め。木村政彦の描き方がかっこいい。「利口じゃないんだよ、この木村は。これでなかなか強いがな」や「一度はじめたことだ。木村のやり方でやらしてもらう」などの名言が連発

*3:永田貞雄についてのルポ。力道山日本プロレスについてかなり多くのページを割いている。

*4:晩年の力道山について触れている箇所があり。試合のやりすぎで疲れきった力道山がまざまざと描かれている