★男たちの大和 YAMATO
★男たちの大和/YAMATO 2/2 MOVIX京都シアター4
★★★
→東映、久々に大ヒットである。次々と直営館は無くなるわ、作品のほとんどはシャレにならないほど質、人気共にひどいし、一時の松竹みたいにつぶれてもおかしくない状況なんだが不思議に正月だけはヒット作品がポンと出てギリギリのところで生き残っている。こんなことを毎年繰り返しておる。
しかし毎年恒例のこととは言え、昨年はひどすぎた。「男たちの大和」につなぐために蔵から「アブ刑事」まで引っ張り出す始末である。そうしてつないだ甲斐があったと関係者一同、胸を撫で下ろしているであろう。この映画は角川春樹の持ち込み企画だと言う印象が強いが「シナリオ」1月号に載った野上龍雄の記事によると企画は東映発で野上さんがこれを映画にしたいと原作を渡されたのが2003年6月のこと。脚本は7ヶ月かかって完成したが、監督も決まらずに制作費が足りないと関係者は泣きの涙であったらしい。そこに現れたのが角川春樹だったのである。
映画秘宝1月号のインタビューによると角川春樹は20年前に原作の出版記念に大和の沈没場所を探せと潜水艇を出して大和の残骸を発見したらしい。そうした思い入れがあって「全財産を投じる!」とばかり話を大きくしちゃったので、なんか彼の企画みたいなイメージが強い。まあ実際に見てみれば、東映が90年代に作った(ヒットしなかった)大作のテイストたっぷりの古臭い映画で、新鮮味は正直言ってない。監督は深作欣二、中島貞夫と並んで東映三羽烏と呼ばれた佐藤純彌。10年前に撮った「北京原人」以来の作品である。佐藤監督が再びメガホンを握ると聞いた時、「北京原人」が遺作にならなくてよかったと、失礼ながらそう思った。佐藤監督ももう73歳である。これが最後だとしてもおかしくない。
角川春樹曰く、「男たちの大和は平家物語である」。勝ち続ける日本海軍の象徴だった大和がやがて、無用の長物と化して勝ち目のない戦いに挑んでいく。。そうした大和を取り巻く状況である太平洋戦争について丁寧に説明しているので、非常にわかりやすい作品となっている。大作に必要なのは圧倒的な分かりやすさである。77年の「人間の証明」以来、大作に取り組んできた佐藤監督にとってはお手の物であろう。今の若い監督(阪本順治、おまえのことを言うとるんだ。もう若くないけど)はこうした当たり前のこともできんのだ。古臭い手法ではあるが、安心して見てられる。
戦争を題材にしている映画なのでどうしても戦争美化か反戦かの立場かが問われるが、(あんまり意味のある議論ではないと思うが)この映画ははっきりと反戦を打ち出していると思う。佐藤監督は「陸軍残酷物語」「実録私設銀座警察」の頃から個人の自由を奪う戦争をひどいものとして描いている。あの「プライベート・ライアン」を彷彿とさせる、息つく暇もないほどバタバタと死んでいく兵士を描き出す。その死に様はかっこいいものでは決してなく、本当に無意味に死んでいき、戦争の悲惨さをまざまざと描いている。molmotさんも書かれているが、このシーンは「バトルロワイアル2」の上陸シーンによく似ているので、ここを撮ったのはおそらくB班を担当した原田徹だと思うが、映画のばっちりとしたアクセントになっていたと思う。
キャストでよかったのは松山ケンイチと蒼井優のカップルだな。「自分の思いを60%は入れる」と語る佐藤監督の思いはこの二人にこめられている。蒼井優はコメディリリーフもこなせる器用な女優だが、これほどストレートにまっすぐな演技ができるとは思わなかった。器用なだけだと思っていたが正直、見直した。予告(この予告は角川春樹が撮っている)でも使われているが、屈託のない満面の笑みが素晴らしい。
鈴木京香と仲代達矢の現代のパートは映画のリズムを壊していたし、イライラもしたし、本当に必要なのかとすら思った。しかし、ラストでは思わず、涙してしまった。細かい欠点は、言えばキリがないのだが(鈴木京香がやった役柄は60歳を過ぎてないとおかしいぞ、どう考えても)割と楽しめた。エンディングに流れる長渕剛の歌はあんまりいい歌だとは思わなかったが、映画の流れからばっちりと決まる。昔から音楽にこだわってきた角川春樹の嗅覚、まだまだ衰えずである。
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