赤毛 1968年 三船プロ

赤毛 11/21 高槻松竹セントラル(不滅の時代劇傑作選4)
★★★
→60年代後半から80年代前半までの岡本喜八の縦横無尽ぶりがすごい。「にっぽんの一番長い日」で東宝を代表する監督となったと思ったら、その次の年にはATGで「肉弾」そしてその次が三船プロでこの作品である。さらに、この翌年には勝プロの「座頭市と用心棒」といろんなところから、お座敷がかかる。映画が駄目になってきてもコンスタントに映画が撮り続けられたのはプログラムピクチャー時代に鍛えられた職人技が評価されていたからである。70年代になっても1年に1本ぐらいの割合で映画が撮れたというのは大変に幸いなことであった。この頃にはもう多くの映画監督が映画を撮れなくなっていたのだ。

 岡本喜八としては「にっぽんの一番長い日」で終戦を描き、「肉弾」で戦争を描く。その昭和の源流として明治がある、と。その原点は幕末であると考えて赤報隊を題材に選んだらしい。赤報隊ってのは戊辰戦争の最中に新政府軍の命を受けて田舎を回って、世の中はよくなるぞ、年貢は免除だ、と新政府が如何に素晴らしいかを説いていた集団。薩摩の下級武士で真っ赤なカツラをかぶって大変に目立った。しかし、新政府軍は財政が火の車でとても年貢の免除なんかできない。よって彼らを偽官軍として処刑してしまった。革命の先っぱしりのさらに先っぱしりのお調子者を主人公にしたホンを書いていたのに三船敏郎がのった。若者の設定だったのを、年の割りにはおっちょこちょいなおじさん(この時、三船さんは48歳。若者はもう無理だ)という設定に変えた。タイトルバックの赤毛をたなびかせて目を輝かせながら馬で走る三船さんは「七人の侍」の菊千代を思わせたんですが、やっぱり日本を代表する俳優のやる役じゃないですな。どうしても、武士に見えてしまう。本当なら脇役で出ていた、寺田農がやるような役柄だったと思う。

 幕末から明治に向かっていく様を一つの村を舞台で描くのはうまい。ねちねちとした悪代官をケレン味たっぷりに演じた伊藤雄之助、ニヒリストの浪人を演じた高橋悦史、ミステリアスな番頭を演じた岸田森、因業な油断ならない商人の花沢徳衛代官所の小役人の常田富士男、ちくり屋のアマガエルが砂塚秀夫と岡本喜八映画の常連をずらりとそろえて、時代の変わり目でもぞもぞと動く悪い奴らを生き生きと描いている。たいした出番でもないが、岸田森がよい。一癖も二癖もある商家の番頭を演じさせるとぴったりだ。この時、まだ30歳である。しかし、それ以上にすごかったのが陽気な女郎をあっけらかんと演じた乙羽信子。銃を構える新政府軍の前で睨み付けるように「ええじゃないか」と踊り狂う姿が圧巻。場をさらった。

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