八百万石に挑む男 1961年 東映京都

☆八百万石に挑む男 11/18 高槻松竹セントラル(不滅の時代劇傑作選4)
★★★★
市川右太衛門と言えば片岡千恵蔵と並ぶ東映の大看板だが、千恵蔵に比べるとどうも印象が薄い。長生きしている割には後半生、ほとんど映画に出なかったからだろうが、「血槍富士」や「十三人の刺客」などの名作に出ている千恵蔵に比べると右太衛門のその手の出演作品は少ない。千恵蔵さんは東映の社長になろうと考えていた人*1なので、政治的な野心も強い人だったが、役者としての自負も相当に強かった。右太衛門にはそうした野心はあまり感じられん。とにかく芝居が重く、見てて肩が凝る。この人が脇に回らなかった、いや回れなかったのは主役の演技しかできなかったからだろう。

 脚本の橋本忍も彼を中心にストーリーを考えるのはしんどいと思ったのか、その重厚さを逆手にとって得体の知れない陰謀家に仕立て上げている。実質上の主役は中村賀津雄の演じた天一坊であろう。当時の時代劇には珍しく、ちゃんばらシーンはほとんどなく、(なんと右太衛門がちゃんばらしない。ご丁寧に「拙者は武芸はからきし駄目で。。」と仲間にことわりまで入れている)ディスカッションを中心にドラマでじっくり見せて最後には敗れていく。そして滅びの美学もしっかり描き出す橋本忍の力量は見事。

 監督は新東宝亡命組の中川信夫。その重厚な脚本を余すことなく、緊迫感あふれる台詞劇を描いている。右太衛門と対決する大岡越前河原崎長十郎、そして天一坊を絶対に認めない家老、松平伊豆守に山村聰。この時代に松平伊豆守は明らかに変なんですが。。まあかたいこといいなさんな。野心満々で生臭さがぷんぷん匂ってきそうな坊さんを演じたのは柳永二郎。相変わらず、いい声だ。

 河原崎長十郎は戦前に歌舞伎より前進座を率いて独立して映画界入り。山中貞雄と組んだ「人情紙風船」や溝口健二の「元禄忠臣蔵」に出演するなど大活躍しますが、戦後になって共産党に入党したために映画界からパージ。「右も左も関係あらへん、うちは大日本映画党や」の東映ぐらいしか使わなかったのか、本作はなんと長十郎の最後の出演作品になっている。その代わりというか、息子の長一郎さんは「幕末残酷物語」や「忍者狩り」と言った東映の裏番張ってる作品に多く出ている。長十郎さんは中国共産党が大好きだったために、文化大革命に傾倒し続けて、ソビエトべったりだった日本共産党に嫌われて、とうとう前進座からも馘首されてしまった。ちなみにこの親子は全く似ていない。

地獄でヨーイ・ハイ!―中川信夫怪奇・恐怖映画の業華

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脚本家・橋本忍の世界 (集英社新書)

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人情紙風船 [DVD]

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*1:

波瀾万丈の映画人生―岡田茂自伝

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