大番

☆大番 9/24 高槻松竹セントラル(特集上映人生名画劇場)
★★★
→いわゆる、東宝娯楽映画の中の一本。当時の流行作家であった獅子文六が週刊誌に連載していた同名の小説の映画化でものすごい大ヒットになって全4作のシリーズになっています。製作は藤本真澄。この人は後に東宝の副社長になった名プロデューサーで、社長シリーズや若大将シリーズなどの東宝娯楽映画シリーズを作りました。そして彼の元で映画を作り続けたのが本作の監督でもある千葉泰樹で娯楽映画を書きまくったのが笠原良三。この3人で東宝娯楽映画の黄金期を築いています。東宝といえば成瀬巳喜男であり岡本喜八であり、なんと言っても黒澤明なんですが一番売り上げを上げていたのがこの娯楽映画シリーズ。低予算で大きな収益を上げる娯楽シリーズは東宝の原動力になっていました。本作はそうしたシリーズの代表作の一つです。主演は脇役が多かった加東大介。田舎から出てきたギューちゃんを楽しそうに演じています。ギューちゃんは典型的な田舎者ですが、どこか目端の利く男で兜町でめきめきと頭角を現していく成り上がり。善人にしか見えない加東大介がやるとその設定が嘘っぽく見えてしまうのですが、ギューちゃんの成り上がりっぽい厭らしさが大分和らいでるいのでまあこのキャスティングは成功でしょう。友人役に仲代達矢。この人は後世の黒澤映画の印象が強いのですが「サザエさん」のノリスケ役などのどこかとぼけたコメディリリーフぶりもなかなか。田舎弁丸出しでべらべら喋るギューちゃんと対照的に無口でどこか飄々と「へえ」とつぶやいたりする。仲代はあんまり好きな俳優じゃないけど本作の出演はよかった。それからキャストでは淡島千景ですな。ギューちゃんに懸命に尽くす、「夫婦善哉」の蝶子さんを彷彿とさせる可愛らしい女性を好演。憧れの人として原節子を引っ張り出したのもうまい。舞台は主に兜町ですがギューちゃんの田舎である宇和島もシリーズ通して幾度か出てきます。田舎の夜這い(宇和島の言葉ではヨバアイ)の実情がしっかりと描かれていて、吃驚した。

大番〈上〉

大番〈上〉

大番〈下〉

大番〈下〉