新・夫婦善哉〜おっさん、たよりにしてまっせ〜
今日、紹介するのは「新・夫婦善哉」。1955年の傑作「夫婦善哉」の続編で1963年に撮られた作品です。監督の豊田四郎、脚本の八住利雄、音楽の団伊玖磨と前作と同じ顔ぶれがずらり。もちろん主演は森繁久彌と淡島千景。この二人じゃなかったら、続編なんかありえない。この二人だけじゃなくて、キャストも妹役の司葉子が八千草薫に代わった以外は全部同じキャストというのがすごい。山茶花究も浪花千栄子も田中春男も同じ役で出てくるというのが嬉しい。
親父が亡くなって数年が過ぎた。柳吉（森繁久彌）もすっかり中年の域に入っていたが、ロクに働きもせずに蝶子（淡島千景）から小遣いをせびっているような毎日。前妻との間に出来た一人娘のみつ子（中川ゆき）も年頃になり、縁談が進んでいた。みつ子は柳吉の妹である筆子（八千草薫）とその婿養子として維康商店を引き継いだ京一（山茶花究）に育てられていた。蝶子はおきん（浪花千栄子）から法善寺横町の小料理屋「卯の花」をまかされて健気に働いており、最近は店に泊り込んで働いている。蝶子はお金を貯めて柳吉と果物屋を始めようと考えていたが、柳吉は養蜂業に興味を示していた。ある日、柳吉はなじみの安カフェでおふみ（淡路恵子）という家出娘に会った。その愛くるしさにも惚れたが彼女の実家が養蜂をしているのに惹かれた柳吉は彼女と一緒に東京へ行ってしまう。
東京でおふみとの二階暮らし。その下宿にたびたびおふみの兄を名乗る伸一（小池朝雄）が出入りするがもちろんこれはおふみの情夫（ひも）。おふみは金を持ってそうな柳吉から金を引っ張ろうとしていたのだ。柳吉もうすうす気づいていたが、今更に大阪に戻る勇気も無く、蝶子に金の無心の手紙を送り続けていた。ある日、蝶子がじきじきに下宿に乗り込んでくる。大喧嘩になるおふみと蝶子。柳吉はやっぱり震えてるだけであった。
一人娘のみつ子の縁談が決まった。町医者をしている赤壁先生（藤田まこと）がみつ子の相手。柳吉は勘当の身なので結婚式に出ることができない。みつ子の父親はすでに死んだことになっているのだ。急ぎ東京から帰ってきた柳吉はがっくりと肩を落とすが、筆子の計らいでみつ子の花嫁姿を見ることができた。みつ子が嫁ぐのと同時に維康商店は社名を変更して船場から移転した。柳吉の生まれ育った船場の家は売りに出された。帰る場所のなくした柳吉は蝶子から「最後の金」と貰った金を握り締めて、東京に向かうが。。
本作は八住利雄の完全なオリジナルで「夫婦善哉」の後日談。ダメ男柳吉としっかり者の蝶子のコンビが中心に描かれていますが前作に比べると柳吉に比重が置かれています。柳吉は今作でもだらしないダメ男で、おふみという若い愛人まで作ってしまう始末。ただ本作の柳吉は、蝶子の尻に引かれっぱなしではなくて、自分から養蜂業をやろうとしている。前作でも関東炊き屋やバーをやってますが、全ては蝶子のアイディアで彼が自主的にやろうとしてたわけではなかった。この柳吉の成長（これが成長なのかは疑問ですが。。）がストーリーラインになっています。それに蝶子と柳吉とおふみの三角関係が加わっています。前作のキャラクター設定やストーリー流れを踏襲しながらも、一人娘のみつ子や船場の変化をからめて二人の境遇の移り変わりを盛り込んでよくできている脚本になっています。ラストで柳吉におぶわれた蝶子が「おっさん たよりにしてまっせ」とつぶやくシーンは前作と対照的で感慨深い。さすが大ベテランの八住利雄やねえ。前作同様に胸がほっこりする映画です。
森繁と淡島のコンビは前作同様に絶品なれど、淡路恵子と小池朝雄のコンビも面白い。二人は共謀して森繁から金を奪ってやろうと考えて小池朝雄は兄のふりをしてやってくるのですが、目の前で二人が仲良くしていると腹が立って仕方が無い。三人で雑魚寝してるときのやり取りは爆笑ものでした。淡路恵子は「兵隊やくざ」の売春婦役が印象的でしたがはすっぱで少し色っぽい女性の役が大変に似合います。彼女も豊田作品の常連で「珍品堂主人」や「男性飼育法」「台所太平記」などに出演しています。小池朝雄も好きな俳優ですが、森繁とのやり取りも何とも楽しい。それから浪花千栄子。前作よりもあつかましく、転んでもただでは起きない大阪のおばはんを楽しげに演じています。淡島千景は80歳の今も現役。昨年の夏に南座の「納涼名作 喜劇まつり」（主演は藤山直美）を見に行ったのですが、片意地な御料さんを好演していました。背筋を伸ばしてキリリとしてる。女優に年はないというのはホンマですなあ。
本作のカメラは先ごろ亡くなった岡崎宏三。後に豊田監督の「恍惚の人」を撮りますが、監督が「カット！」の声をかけているのに何度も撮り直しをさせて、主演の森繁を困らせたそうです。冬の雨のシーンで皆は寒くて仕方なかったらしい。本作はニュープリントなのでとっても綺麗。舞台になる法善寺横丁も綺麗に撮られています。
監督：豊田四郎 製作：佐藤一郎 脚本：八住利雄 撮影：岡崎宏三 音楽：団伊玖磨 美術：伊藤熹朔 編集：広瀬千鶴 録音：長岡憲治
出演：森繁久彌、淡島千景、淡路恵子、小池朝雄、浪花千栄子、若宮忠三郎、山茶花究、八千草薫、中川ゆき、田中春男、八代万智子、藤田まこと、三木のり平、辻伊万里、松村達雄
