真夜中の弥次さん喜多さん〜あたま、パッカーンやで、じぶん〜

yajikita

 今日、紹介するのは「真夜中の弥次さん喜多さん」。MOVIX京都で日曜日に見てきたのですが見事に満席!恐れ入りました。観客は若い子ばかりで後ろで死ぬんじゃないか、という勢いで笑い転げる女性がいらっしゃいました。特にヒゲのおいらんがツボだったようで嗚咽までしてました。。。うるせえよ。監督、脚本は「タイガー&ドラゴン」も好調な宮藤官九郎でございます。

 思えば、クドカンのホンってのは独特すぎるキャラクターにアホくさいパロディがつまっているのですがストーリーはきわめてオーソドッグス。今時、珍しいほどに起承転結にこだわっており、最後は少し泣けてしまうのだ。これは彼が大好きな落語や本業の舞台の脚本書きと演出からの影響が大きいんでしょう。あんまりに荒唐無稽だと客はついてこない。大笑いしたあとに少ししんみりする、ってのが最も好まれる。なんか持って帰るものがないと観客は安心して劇場をあとにできねえのだ。クドカンはギリギリまでトンで見せながら最後は観客を安心させて、「あの舞台、映画よかったねー」と言う感想を持って帰ってもらうことに苦心して脚本を書いているのだ。

 彼が脚本を書いた映画は「木更津キャッツアイ 日本シリーズ*1以外は全部見てて、ドラマも「マンハッタンラブストーリー」は全部見た。「GO」「ピンポン」で大ヒットを飾り、昨年は大活躍の年でクドカンも「アイデン&ティティ」「ゼブラーマン」「ドラッグストア・ガール」「69」と4本も書いている。今の日本映画界で一年に4本も書くなんてことは本当に珍しいことでクドカンに寄せられる期待は大きかったと思うのだが、「69」はややマシであるがあとの3本はお世辞にも面白いとは言えません。もっともこれはクドカンの責任ではなくて、監督の責任が大きい。脱線の部分が強すぎて本筋がちっとも生きてこないのだ。田口トモロヲは単なる力不足だろうが、三池崇史も本木克英も脱線部分に力を入れすぎて映画のバランスを崩しているのだ。悪ノリして話を崩してしまってる。*2ただ一人李相日だけが脱線と本筋をうまくバランス持ってポップに軽く仕上げてていた。私が一番好きなのは「GO」クドカンの強烈なギャグをスパイスに脱線することなく、親子の関係を中心に描いた行定勲の演出はやはりうまかった。窪塚が落語が好きで「高尾」の落語にあわせて柴崎コウが出てくるシーンなんて最高でしたね。

 さて、長い前置きになりましたが「真夜中の弥次さん喜多さん」は脚本だけでなく、彼が監督。彼が自分の脚本をどう扱うか、にすごく興味があった。原作はしりあがり寿の同名の漫画。実はこの漫画、一巻で挫折してしまった。妄想と現実を行ったり来たりするロードムービー的な運びは面白いし、弥次喜多をホモのカップルにしてしまったり、喜多さんをヤク中にしてしまった設定も笑えた。が、あまりにもストーリーが強烈で途中で気持ち悪くなってしまったのだ。どうでもいいことだが「東海道中膝栗毛」では喜多さんは弥次さんの借家人で役者をしてるという設定なので、ホモだというのがあながち間違いでもないのだ。何にせよ、松尾スズキが「恋の門」でクドカンが「真夜中の弥次さん喜多さん」と大人計画の楽屋には定期購読されているコミックビームが山と詰まれてて付せんがいっぱい貼ってあるに違いない。

 で、感想なんですが意外にちゃんとした映画だと思いました。見た目はバイクは出てくるわ、ヒゲのおいらん*3は出てくるわ、金髪でちょんまげだわ、こんなところで親子共演してどうすんだ、天皇の次はラリ中のホモかよ、右翼に襲撃されんぞ、とか竹内力はノリノリだわでひっくり返したおもちゃ箱のような映画なんだが、最後はきっちりとまとめている。つまり演出に正直、目新しさを感じることができなかった。テンポが悪くて二人でCDデビューしたりするシーンとか間延びしてたし、ラストへの助走も息も絶え絶えって感じである。ただ、確かに面白い。私も途中に幾度も大爆笑したし、もう一回見てもいいかなとも思ったぐらいだ。原作のテイストもちゃんとつかんでいるし、ラストも少しホロリと来た。

 好き放題にやっているという意味ではタランティーノの「キルビル」に似てると思う。が、少し違うのは「キルビル」は「おいらの頭の中を少し見せてやるぜ」って感じに対して、こちらはクドカンドラマ、映画常連総出演のクドカンファン感謝祭という感じでファンを巻き込んで遊んでる感じ。明らかに荒川良々の使い方なんて行きすぎなんだが、一番そこで笑ってしまった。阿部サダヲのめちゃくちゃなキャラはどこかで見たなあと思っていたら、molmotさんd:id:molmot:20050422の日記を見て蒲田行進曲の銀ちゃんのパロディであることに気づいた。あの賑やかで早口でまくしたてる出鱈目な感じが映画にリズムを作っている。それから全く期待してなかった小池栄子研ナオコも好演。

 万漢全席みたいな作品で豪華なんだが、胃がもたれる。他のキャストと色合いが違うARATA麻生久美子の使い方なんざあ、案外映画わかってんじゃねえかと感心したけど。次回作も楽しみやね。

監督、脚本:宮藤官九郎 原作:しりあがり寿 音楽:ZAZEN BOYS 撮影:山中敏康
出演:長瀬智也中村七之助小池栄子阿部サダヲ柄本佑生瀬勝久寺島進竹内力森下愛子岩松了板尾創路、桑幡壱真、山下真司大森南朋おぎやはぎ皆川猿時松本まりかあじゃ、北原ひとみ、前田綾花、松本真衣香、斉藤亜希子勝俣幸子古田新太山口智充清水ゆみしりあがり寿松尾スズキ楳図かずお中村勘九郎毒蝮三太夫研ナオコARATA麻生久美子妻夫木聡荒川良々

合本 真夜中の弥次さん喜多さん

合本 真夜中の弥次さん喜多さん

くど監日記 真夜中の弥次さん喜多さん

くど監日記 真夜中の弥次さん喜多さん

*1:ドラマを見ていなかったので、見に行かなかった。現在、ビデオで追っかけている。

*2:これは別にこの作品に限ったことではありませんけどね。この二人はいつもこんなもんです

*3:しりあがり寿にはヒゲのOL薮内笹子というケッタイな作品がある

ヒゲのOL薮内笹子 (Bamboo comics)

ヒゲのOL薮内笹子 (Bamboo comics)