極道の妻たち 情炎〜高島礼子&杉本彩の二枚看板主演のシリーズ第15作目〜

gokutuma


 花は桜木、映画はヤクザ。今日、紹介するのは「極道の妻たち 情炎」。東映の人気シリーズである極妻シリーズも本作で15作目。岩下志麻から高島礼子になって5作目になります。かつては劇場を満杯にした人気シリーズですが、京都は京極弥生座でモーニングショーとレイトショーの二回上映。知名度から言えば少しさびしいですが、岩下志麻が出てた頃からもう興行成績はしんどかったみたいです。岩下志麻のシリーズは「志麻さんが綺麗なうちに終わらせよう」と10作目の「極道の妻たち 決着」(現時点での中島貞夫の最後の作品)で終了。その後、高島礼子で新シリーズがスタートしたのはまだまだうま味があるということでしょう。

 一つにはテレビでの視聴率がいいので、テレビ局が高く買ってくれるということ。日本映画を見ない皆さんでもテレビで「極妻」を見たことはあるでしょう。もう一つはレンタルビデオの回転率が大変にいいということです。「極妻」に限らず、ヤクザ映画のレンタルビデオは人気コンテンツです。この二つのうま味を生かすのには劇場公開作品という名前が欲しい。ビデオスルーに比べて宣伝効果が大きく違うそうです。関西では「ミナミの帝王」で公開された作品もあるしね。この手の宣伝効果のための上映というのはよくあります。ただ、問題なのは結局それでお客さんが満足してしまって劇場に足を運ばない。。。金曜日の夜に行ってきましたが、映画館に入ると座席に足かけてひっくり返っているオッサンがお出迎えで10人に満たない人数で上映開始。外人さんがいたのが謎です。

 兵庫県西宮に本部を置く菅沼組ではひそかに跡目相続について話し合いが続いていた。最有力候補は若頭の河本一兆(保坂尚輝)という朝鮮人ヤクザであった。舎弟頭をはじめとして幹部連(菅田俊)は河本を推薦したが、前若頭の西郷龍二の未亡人で西郷組を切り盛りしている波美子(高島礼子)は異議を唱えた。数年前、大組織の坂下組との抗争の最中に龍二は何者かに殺されていまだに犯人がわかっていない。その落とし前をつけるうちは後継を決めるべきではないと反対したのだ。そして病床にあった菅沼組長(大木実)が跡目について重い口を開いた。彼が指名したのは龍二実弟で今は波美子の片腕となっている恭平(山田純大)であったのだ。

 驚いたのは、菅沼組長(大木実)の娘であり、河本の妻である蘭子(未向)であった。彼女は旦那を二代目にするために、坂下組の有力幹部である長峰松重豊)と通じていた。しかし、この肝心な時に河本はもう一つピリッとしない。彼の前に白英玉(杉本彩)が現れたのだ。彼女は河本が韓国にいた頃の恋人で悪事の相棒でもあった。彼が日本に逃げる際には彼女は彼の身代わりで服役。そして彼を追って日本に来ていたのだ。河本が世帯を持っていたことに気づいた白は黙って河本の前から姿を消そうとするが。。

 高島礼子の一枚看板ではしんどいと見えて、杉本彩を二枚看板に投入。昨年、「花と蛇」で大ブレイクして今や、東映には欠かせない女優になりました。ビデオの回転率もすごいらしく、今年には「花と蛇2」も公開されます。落ち着いた演技を披露する高島礼子に対して、上から下まで黒でボーイッシュに決めている。山田純大を殺そうとするヤク中の殺し屋をマシンガン一発でしとめるシーンはめちゃくちゃかっこいい。今、気づいたけどこのキャラって東映ピンキーヴァイオレンスでのキャラだよな。しかし、その高島礼子杉本彩に負けない迫力を出したのが未向(みさき)でしょう。山田優をケバくした感じでスタイルも大変にいい女優さんなんだが、脱ぎをまったく辞さない!素晴らしい!演技は荒削りで体当たりなんだが、キャラクターの激しい性格が演技にぴったりです。吐き捨てるような台詞回しとキッツイ目つきが映画全体に緊張感をみなぎらせている。謀略をめぐらしトップに立とうとするが、結局は男に言いようにされてしまう、自業自得で性格悪すぎなんだが、どこかかわいいところもある。前田愛はヤクザ映画にありがちな女でつまらんのだが、これはストーリーの設定上で仕方が無いか。

 本作から監督はベテランの関本郁夫に代わって「新・仁義なき戦い/謀略」でデビューした橋本一。土橋亨以来の10年ぶりの東映社員監督となる橋本監督の持ち味はやはりそのアクションの切れ味とテンポのよさ。本作で三度用意されるアクションシーンは見ごたえ充分である。圧巻だったのは高架下での襲撃シーン。まったく何気ない日常からいきなり通行人の一人が銃を抜き、襲撃が始まる。懸命に応戦する組員に打たれても死なない殺し屋たち。いったい、いつ終わるのかと思うほど長くスクリーンに緊張感が続き、銃声が鳴り響く。思わず、深作のヤクザ映画を思い出した。ラストの高島礼子杉本彩の大暴れも素晴らしい。高島礼子は息をつく間もなく、血しぶきをあげながら、ばっさばっさと斬っていき、杉本彩はマシンガンの先にナイフを仕込み、相手を突いて、撃ち殺してとどめをさしていく。一方で眼帯を外してニヤリと笑って銃を抜くヤクザや、「わしは知らんっ・・・あいつの居所なんか知らんっ・・」とぶるぶるつぶやきながら、居所を指差すヤクザも面白い。

 男性陣ではやはり、松重豊。「レディ・ジョーカー」でもすごかったんだが、この人の迫力はものすごい。のっそりと立ち上がり、長身を折り曲げて目を覗き込むように喋るところがめちゃくちゃ怖い。目に何も映っていないので何を考えているかわからないのだ。すごい役者になった。この人が出演しているというだけで見ようと思うもんな。杉良太郎の息子でペパーダイン大学卒業の山田純大もエリートヤクザを好演。勢いにのせて突っ走る様がかっこいい。保坂尚輝も謀略にたけたヤクザとしての顔とよき夫でよき父としての二面性を持った男を好演。あのカミソリのように痩せた姿が修羅場を生きてきた在日ヤクザの雰囲気をよく出している。

 ストーリーは予定調和で新鮮味はありませんが(脚本は大ベテランの高田宏治橋本一の演出と未向や松重豊の演技が新風を吹き込んでいます。これがこのシリーズにカンフル剤になるか。橋本監督をこれ一作で変えてしまうようでは、シリーズのこれからは暗いだろう。ちなみに一般では「ごくつま」と呼ばれることが多いですが、「極道の妻たち」と書いて「ごくどうのおんなたち」と読む。でも「ごくんな」と呼ぶ人はおらんだろう。


監督:橋本一 脚本:高田宏治 製作:黒澤満 企画:松田仁 原作:家田荘子 撮影:仙元誠三、栢野直樹 照明:椎野茂 美術:山崎秀満
出演:高島礼子杉本彩山田純大保坂尚輝前田愛松重豊、未向、深浦加奈子、六平直政大木実誠直也寺島進菅田俊榊英雄、成瀬正孝、家田荘子