ローレライ〜良くも悪くも亀山印の底抜けファンタジー〜

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 今日、紹介する映画は大ヒット街道爆走中の「ローレライ」。フジテレビ映画事業局長の亀山千広が世に送り出した底抜けスペクタルファンタジーでございます。監督は特撮界のトップランナーである樋口真嗣。「ガメラ」シリーズの特撮を担当したのは知ってたけど若い頃に香港のゴールデンハーベストで仕事したり、「新世紀エヴァンゲリオン」にも参加してたとかは知らなかった。その縁か、庵野秀明も協力しています。

 原作は「亡国のイージス」の福井晴敏ですが、実は本作は映画のための書き下ろしで樋口監督に「亡国のイージス」みたいな話を作ってくれ、と頼まれて書いたものです。「第二次大戦」「日本軍最後の潜水艦」「女の子」の3つをテーマにリアルよりもファンタジーに振り切った方向で福井氏は書いたそうです。確かにローレライシステムなど無理ありすぎですし、最後の吶喊(とっかん)を含めて「んな、アホな!」なところが多かったです。が、それは狙いであって彼らが作ろうとしてたのはアニメが最も得意とするファンタジー戦記ものだったのです。

 はっきり言いますとこの映画はそんなに面白くありません。登場人物が多い分、一人一人の書き込みが薄い。ストーリーの背景が見えてこないので、共感できるキャラクターが少ないのだ。明確な対立軸が出てこないのでドラマに深みが出てこないのだ。それらしいものは出てくるのだが全部、希薄だしね。あっさりと解決してしまうし。堤真一もよくわからん。鶴見辰吾がやった諜報主任などもう少しクローズアップしてもよかったと思う。役所広司の演説シーンが泣かせ所なんだろうが、何回もやるのでしらけてしまうのだ。あんたはアル・パチーノかと思ってしまう。妻夫木聡はうまいんだが、役所広司に比べると弱いな。新人の香椎由宇とかピエール瀧はさほど演技はうまくないんだが、使い方がうまいから印象に残る儲け役。

 大味で物足りない作品ですが、「なんか面白そう」と思わせる娯楽映画の水準は保っているだけさすがと言えようか。國村準や小野武彦のような芸達者をうまく使ってます。亀山千広ってそういうところがすごくうまいですね。「踊る大捜査線」も犯罪解決よりも組織の一員としての刑事を扱ったドラマで、従来と違ったドラマ作りに「なんか面白そう」と思った観客が足を運び、その等身大の刑事に共感を抱いた観客によってあの「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」の大ヒットが作られました。作品はあんまり面白いとは思いませんが、それまでのネットを使った根強いファン作りには頭が下がる。踊るの続編と見たいという人がそれだけ多かったということでしょう。繰り返してみるファンもたくさんいました。

 「踊る大捜査線 THE MOVIE」のヒット以降、二番煎じみたいな作品も多く生まれましたがいずれも不発に終わってます。そうした中でも亀山の作る映画がヒットしてるのはこうした、きめ細やかな、地道なファン作りが効果的なのだろう。「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」や「ローレライ」のような大作路線と並行して「レイクサイドマーダーケース」(この映画はフジテレビが完全出資)や「スウィングガールズ」のような作品を手がけてます。良くも悪くも目が離さない日本映画のキーパーソンの一人です。

監督、特技監督樋口真嗣 製作:亀山千広 脚本:鈴木智 原作:福井晴敏 音楽:佐藤直紀 撮影:佐光朗 画コンテ協力:庵野秀明 企画協力:中島かずき 特撮監督:佛田洋

キャスト:役所広司妻夫木聡柳葉敏郎香椎由宇堤真一石黒賢佐藤隆太ピエール瀧KREVA小野武彦橋爪功、國村準、鶴見辰吾伊武雅刀上川隆也近藤公園阿川佐和子佐藤佐吉忍成修吾