アトミックカフェ

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今日、紹介するのは第七藝術劇場で見てきた「アトミック・カフェ」。1982年に作られた作品です。どうしてそんな作品が話題になっているか、というと「華氏911」のマイケルムーアの映画の師匠がこの映画を撮ったラファティ兄弟。兄貴のケヴィンは撮影を担当しています。なおこの兄弟は何とブッシュの従兄弟。ムーアの「アホでマヌケなアメリカ白人」を読んでいる人は思い出そう。エピローグでジェフ・ブッシュ(ブッシュの弟でフロリダの知事)とケヴィンについて話すシーンがある。最もケヴィンはブッシュの親父を破ったクリントンのドキュメンタリーを撮ったりしています。なおムーアは彼と12年以上も仕事はしていないそうです。

 ムーアの映画の醍醐味と言えば、ダレがちなドキュメンタリーをテンポよく見せてくれるところにあります。その彼がよく使うのは昔の映像を引っ張り出して面白く使う。「華氏911」の「同盟軍の登場!」で数々の珍妙なフィルムをナレーションにうまくあわせて作っていた。「アトミックカフェ」は昔のキテレツな啓蒙映画やニュースフィルムを組み合わせて作られた作品です。ナレーションや新しく撮られたフィルムは使われていませんので、ムーアの映画とは印象が変わります。が、ムーアがこの映画から受けた影響は窺い知ることができます。そしてラファティ兄弟が選んだお題は「原爆」。第二次大戦終戦直前からのニュースフィルムや広報用フィルムがネタに使われています。

 今でこそ、核爆弾は全世界でも減らしていこうという風潮になっていますが当初はそうでもありませんでした。エノラ・ゲイ(広島に原爆を投下した爆撃機)の機長のインタビューからこの映画は始まります。原爆の投下が戦争の終結を早めたと当時の大統領だったトルーマンが語ったように原爆は強力な武器でした。日本でも終戦直後に「原爆ラーメン」だのありましたし、プロ野球でも松竹水爆打線ってのもありました。「原爆固め」もあったよな。朝鮮戦争で原爆を使うべきだと主張したマッカーサーは熱烈に支持されました。アメリカの50年代はマッカーシー旋風が吹き荒れて、共産主義者は追放されてしまいます。その中で"I like lke"の風に乗って、二次大戦の英雄で政治家としては全くの無能であったアイゼンハワーが大統領になります。

 そうした社会風潮で撮られた広報映画やニュース映画が多く使われています。前半のエノラ・ゲイ機長のインタビューと能天気に原爆の威力をたたえる阿呆なロカビリーは正直、むかついた。関西在住の方は思い出してくれ。最近まで「京都に空襲がなかったのはアメリカが文化財の破壊を望んでいなかったからだ。」とか言う説があったが、京都は原爆投下の第三候補であり、空襲しなかったのは原爆の威力を試すつもりであったのだ。投下予定地は私の実家から50mも離れちゃいねえ。一つ間違えば、私は生まれてこなかったのだ。原爆の効果を試すってこいつらは日本を何だと思ってやがんだ。被爆者の映像もあるしね。こういう映画を見て目くじら立てて怒るのは野暮天かもしれねえが、やっぱアメリカは地獄に落ちろ。アルカイダアメリカに核を落とすとか言っていたが、いっぺんやったったらいい、と思う。俺は応援するぜ!

 面白かったのはカメのバートが出演する「DUCK and COVER」。原爆が落ちたらどうする?→さっと隠れて頭を覆え。放射能は?→大丈夫!全然危険じゃない、と笑うという唖然とするアホアホすぎる子供向けの教育映画。こうした冷戦下のアホアホな啓蒙映画はサウスパークでもネタにされてました。製作者はこんなのを真面目に作ってたのか?

 冷戦下のアメリカを探る資料としても楽しめますが、日本でも戦時中のフィルムや新聞を見ると似たようなことはどこでもやっていることがわかります。政府による大衆の操作というのはこういうものだ、と冷静に今でこそ見つめられていますが、そうしたことは今も進行中だったりするのです。いや、アメリカだけじゃなくて日本でもね。日本でもこういう映画ができたら面白いんだろうけど著作権の問題とかで難しいんだろうねえ。NHKならできるかもしれないけど。。やらんやろうね。

アトミック・カフェ [DVD]

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監督・製作・編集:ケヴィン・ラファティ、ピアース・ラファティ、ジェーン・ローダー