しゃべれども しゃべれども 

しゃべれども しゃべれども 6/8 MOVIX京都シアター2
★★★★★
→久しぶりにいい日本映画を見た気分になった。名匠平山秀幸、久々の快作である。

 夢のない、乾ききったスルメのような人生を生きる私がその子ども時代に唯一、なりたいと思った職業、それが落語家である。小学生時代、母親がよく聞いていたおじさんの喋る声。それが落語であることを知り、そのおじさんが桂枝雀という落語家であったことを知ったのは中学生になってからのことであったが、母親にせがんで買ってもらった落語のテープ。それが「地獄八景亡者戯」だったのが運の付き。中学生になると小遣いがたまると落語のテープを買い、やがて落語会通いが始まり、ここに落語家を夢見る少年ができあがったわけだ。だから、本作で村林が枝雀の「まんじゅうこわい」を聞いて落語のとりこになるシーンは他人事ではなかった。村林の「まんじゅうこわい」は枝雀そっくりの口調で大笑いしてしまった。ちなみに伊東四郎の「火焔太鼓」は古今亭志ん生ね。

 下町を舞台に、江戸の古い情緒ある寄席が出てくるだけでもにんまりしてしまうが、落語を通して「話す」「伝える」という他人への働きかけの難しさを懸命に描いている様に好感が持てた。人一倍落語が好きなのに客にそれが通じずに悩む若手落語家の三つ葉、自分の思いを素直に出すことができずに無愛想に振舞う十河、新しい環境になじめず、クラスで浮いてしまった小学生の村林、実績は豊かなのにそのあがり症と口下手で解説の仕事を干されかけている、元プロ野球選手の湯河原。皆がそれぞれに悩み、そして何とかしようと考えている。そうした人物が等身大に描かれている。

 台詞を大切にドラマを丁寧に積み重ねて、人間を描く。無理に感動させるつくりにもなってないし、俗に言う泣かせどころもない。それでもじんわりと心が温まるような映画であった。国分太一香里奈松重豊森永悠希(子役)の演技も自然体でよい。特に香里奈は本当にうまくなったねえ。ラストのシーンでは泣きそうになった。伊東四郎の師匠もよかった。落語演じるところも、落語家が演じる落語と言うよりも、伊東四郎の落語って感じで本当に大笑いしてしまった。西田敏行もうまいんですけどね。やっぱ落語家を演じているだけなんだよな。。ここはやっぱり伊東四郎のすごさやね。登場は少ないけど、八千草薫もしっとりと落ち着いた演技。劇中でご自身も言ってますが「まんじゅうこわい」が一番うまいのは彼女です。(笑)

 好きなものから逃げると一生後悔する。この言葉が一番、身に沁みました。あやうく、逃げかけてましたが、目が覚めました。

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

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国分太一のしゃべれどもしゃべれども

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「しゃべれども しゃべれども」オリジナルサウンドトラック

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饅頭こわい

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落語らいぶ(4) 饅頭こわい

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落語絵本 二 まんじゅうこわい (落語絵本 (2))

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枝雀落語らいぶ(2)茶漬えんま

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・・・これが私のはじめて聞いた落語