グッドナイト&グッドラック

グッドナイト&グッドラック 5/14 TOHOシネマズ高槻スクリーン7
★★
ジョージ・クルーニー監督作品でアカデミー賞にもノミネートされてたんで、期待していたんだが、あんまり面白くなかった。テーマは好きなんだが、予備知識がないと楽しめないだろう。まずはエド・マローというキャスターについてアメリカではなじみが深いと思うが、日本ではそんなに知ってる人はいないだろう。当時の人気番組を担当していたキャスターで報道のCBSを築いた功績を持ったジャーナリスト こうした予備知識がないと非常にわかりにくい。アメリカなら、説明しないでもみんな知っているのかもしれないがちと不親切だと思う。

 加えて舞台を放送局の中に限定してしまっているのもしんどかった。一つの舞台で描くのは一つのやり方だと思うがその割には人物のドラマもきっちり描けているとは言いがたい。長ければいいものではないが、この題材なら2時間ぐらいはドラマをきっちり描いて見せられると思うのだが。。

 マッカーシーを役者に演じさせず、当時の再現フィルムで彼本人の映像を使った工夫は面白いと思った。それを使うためにモノクロ映画にしたのもうなずける。マッカーシーというオッサンは調べれば調べるほどロクでもないオッサンである。赤狩りの影響は大きく、ハリウッドは多数の人材を流出させている。上院で「国務省の中には共産主義者がいる」と主張し、彼の暴走は始まったのだが後にこの発言は全くの出まかせだったことがわかる。

 しかし問題だったのは国民がマッカーシーを支持し、彼に反対する人々を共産党員、共産党擁護者というレッテルを貼ることに賛成したことである。そうした状況で人気キャスターであったエド・モローは彼を批判したのだ。エドはもしキャスターを下りることになっても無収入で数年は暮らせることを確認している。(こうしたエピソードを映画で使えばよかったのに。。)放送後に電話が一本も来ないことに危惧するスタッフ。「誰も見ていなかったのか」と顔が青くなるスタッフに放送中には電話線は抜いておけ、と指示されたスタッフが「もう電話線をつないでいいでしょうか」と聞く。電話線をつなぐと一斉に電話が鳴り始めて、スタッフはほっとするのだ。反応があったことに、喜ぶスタッフの姿がリアルであった。

 しかし実際はマッカーシーは失脚してからも人気が高く、今でも信奉者が多い。彼の失脚は大統領のアイゼンハワーをはじめ、彼のことを嫌っていた議員が多く、彼が軍隊のことに口を出したことで一気に彼に対する不満が飛び出して失脚したのだ。マッカーシーは失脚して数年後にアルコール中毒になって死んでいる。

 問題なのはマッカーシー人間性なのではなくて、こういう人間が多くの支持を受けた、その現象なのであろう。ジョージ・クルーニーがわざわざこの題材が選んだのは現在のアメリカが酷似していることに対する危惧からであることは明白である。アシュクロフト、ラムズフェルド、ウォルフォウィッツと言ったマッカーシー並みな人たちがつい近年まで中枢にいた(今は過去形で語れるようになったが)ことを考え、イラク戦争直後のアメリカを見ていると決して、過去の物語ではない。

 映画はモノクロ。当時の映像を使う為に白黒だったんだろうが、増村保造が「陸軍中野学校」をあえて白黒で撮ったように、もっと工夫があってもよかったと思う。しかし当時はキャスターが煙草を指に挟みながら、テレビに出てたんですね。。この時代、煙草吸わない男が珍しかった時代でチェロの高名な演奏家なんてくわえ煙草で演奏し、吸殻を弦の間から、チェロの中に放り込んでいたとか。それから卑怯者のことを「イエローめ!」と罵るシーンがあってこれもやっぱり、日本人=イエロー(黄色人種)=パールハーバー=卑怯者から出てる。そうした時代性はよく出ていた。

グッドナイト&グッドラック 豪華版 [DVD]

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「グッドナイト&グッドラック」オリジナル・サウンドトラック

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グッドナイト&グッドラック (ハヤカワ文庫NV)

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