キネマの星座外国映画2006ベスト
まずは外国映画から。今年も外国映画は秀作揃いでしたが、順位付けが難しかったです。例によって1位から10位まではコメント付き
1位:ミュンヘン
164分という長い作品だが、時間をまったく感じさせないほど観客の心をつかんで離さない大傑作である。スピルバーグって監督は不思議な人でこれほど作品ごとに作風もカラーも違う人は珍しい。いまやハリウッドの大物の一人だが、その根っこは職人気風の映画監督で映画を撮ることが好きでたまらんのだろう。イスラエルの暗殺集団を描いた作品だが、何の特技もない男たちが手練手管を駆使して失敗しながら任務を成功していく過程を中心に描き、徐々にテロの怖さ「やったらやられる」を緊張感たっぷりに描いていく。光線を絞ってしっとりとしたカメラもたまらない。ケレン味たっぷりのジェフリー・ラッシュも見事!
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2位:キンキーブーツ
下町を舞台に、小さなドラマを丁寧に手間隙かけて描くのがイギリス映画の醍醐味。そうした傑作「フルモンティ」を生涯ベストの一本に挙げる私にとって、この「最もイギリス映画」らしい本作もこたえられない傑作であった。親父の工場を言われるままに引き継いだ青年と自分の欲望のままに生きることを誓いながら、ある事情から徹しきれないオカマの奇妙な友情をたっぷり時間をかけて描いている。悩み苦しみながらも遠慮がちに結論を出し合い、お互いをアシストしていく。さわやかな後味を残していく傑作。それとドラッグクイーンの靴という前代未聞なものを工夫を凝らして作っていく技術屋さんのパワーに打たれた。
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3位:硫黄島からの手紙
これも日本で作らねばならない作品であった。戦争映画は数多くあるが、どれも歴史の事件としての戦争を描いた映画であった。兵士の視点で描かれた映画もあったが、作り手のロマンがたっぷり載せられてるので等身大の兵士を感じられることはなかった。戦争ではなくて軍隊を描いた「兵隊やくざ」という例外を除いて、日本の戦争映画は平家物語のような滅びの美学である。本作ほど戦場における兵士の心情を描いた作品があっただろうか。誰よりも勝ち目のない戦いだと認識し、その気持ちを飲み込んで、最後まで戦うことを決意した司令官。死を決意した戦場において、傷ついた敵兵を助けて談笑する軍人、国家のためにすべて奪われたパン屋の主人、兵士である前に人間であろうとした青年、絶望的な状況の中で死ぬことに意味があると信じた軍人。。様々な日本兵が登場し、一人一人を丁寧に描いている。まるで日本映画のように全編が日本語で語られるが、監督はクリント・イーストウッド。二宮和也、渡辺謙の演技がすばらしいが、ヨゴレ役になった中村獅童も褒めねばならんだろう。
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4位:ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!
ストップモーションアニメという手法もそうだが、脚本からキャラクター設定からもうあきれるほど時間がかけられて手間隙作られた作品。こうした作品を同時代的にリアルタイムで楽しめることは素直に喜びたい。鑑賞中、とにかく楽しくて仕方がなかった作品。グルミットが目をパチクリさせながら動いているのを見ているだけで楽しい。
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同性愛者を扱った恋愛ドラマがアカデミーの候補に挙がるというのもすごいが、それをカウボーイでやったのがまたすごい。センセーショナルなテーマでありながら、静かで味わい深い作品になっている。しかし、一見芸術映画のような本作にはしっかりと人を斬る刃がついている。それはカウボーイの映画、つまり西部劇で描かれる男同士の友情が同性愛と紙一重であり、そのことを示したことである。こうした作品がアカデミーの候補に挙がることは、アカデミー賞が作品の質以外の別の評価基準で候補を選んでいるのではないひとつの証拠であるが、アカデミー作品賞を逃して、万人が認めるよい映画である「クラッシュ」(別に悪く言っているわけではない 為念)が取ったことはやはり、本作が問題作だったのではないかと考えさせる。愛し合いながら、別々に暮らし始めるジャックとイニス。しかし、二人はまたもや恋に落ちてしまう。メロドラマを大袈裟に描くのではなく、淡々と描き出す手法に酔った。ラストのイニスとジャックの父親とのやり取りに涙した。後世に残る傑作の一本。
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6位:エミリー・ローズ
悪魔憑きがテーマなので、ショッキングなシーンも多い。しかしそれ以上に本当に悪魔がいるのかどうかを法廷で争ったという実話を基にした、骨太な法廷ドラマに見応えがある。ラストまでストーリーの展開が読めずにラストで監督の描きたかったことに気づき、思わず涙する。キャラクターをきっちり描き分ける演出も見事。キャストではローラ・リニー、トム・ウィルキンソンの落ち着いた演技もいいが、新人ながら悪魔が憑いた少女を熱演したジェニファー・カーペンターの身の張り方がすごい。テイストはホラー映画なので苦手な人にはキツイが深い感動が得られることは保証する。
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デビッド・クローネンバーグの「仁義の墓場」というべきか、とにかく暴力描写がすさまじい。マフィアの世界から身を引き、一般人として生きていたヴィゴ・モーテンセンがある事件から昔の組織ともう一度対決することとなる、というのがストーリー。本作の醍醐味はもっとも力をかけて描かねばならない主人公を最後まで得体のしれない男にしていることであって、特になぜ組織から狙われるのか、もっとも観客が気になるヴィゴの過去に関して描いている箇所が少ない。これが観客に不安を起こさせ、繰り広げられる暴力描写をより不気味なものにして緊張感を持たせている。執拗にヴィゴを追う片目がつぶれたエド・ハリス、本心を全く出さずに笑ってるのか怒ってるのかさっぱりわからんウィリアム・ハートも見事ですが、この手の規格外な役柄がぴったりなヴィゴ・モーテンセンに万歳だ。
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8位:もしも昨日が選べたら
アダム・サンドラー主演のコメディ映画。日本では受けの悪いサンドラーものだが、本作は掛け値なしに面白かった。時間を自由に進めるリモコンという設定も面白いが、その操作画面を映画ファンにはおなじみのDVDのメニュー画面にしてしまう工夫にもニヤリとさせられた。人生の面白みは結果ではなく、その過程にあるという忘れがちな人生訓をきっちり練りこんで、笑いあり、涙ありの見応えのある作品になっている。何より、クリストファー・ウォーケンの存在感がすごい。
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9位:プロデューサーズ
大ヒットを博したブロードウェイの映画化。本作がすごいのはブロードウェイのキャスト、スタッフをほとんどそのまま使ったこと。ミュージカル特有のド派手さに加えて映画ならではの映像表現(圧巻だったのはマックスがスポンサーである老婆数十人から次々と小切手を受け取るシーン)が加わって賑やかな作品になっている。ミュージカル特有の大味な感じがちと疲労を誘うが、全編たっぷり楽しめる。特に「春の日のヒトラー」は最高だ!久しぶりにコメディエンヌとなったユマ・サーマンがとても楽しそう。サントラもぜひ買いましょう。
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10位:ホテル・ルワンダ
ハリウッド向けの題材なのだが、そう描かずにヒーロー向きの主人公を等身大の男として描いたことが本作の醍醐味。普通の人が非常時において発揮する、とんでもない勇気が人々の心を打つのだ。そうした監督の演出意図に応えてみせたドン・チードルの演技が何よりもすばらしい。様々なエピソードを含めて、後世まで残る傑作。
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11位:サンキュー・スモーキング
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12位:幻影(京都映画祭にて上映)
13位:父親たちの星条旗
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14位:2番目のキス
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15位:トンマッコルへようこそ
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16位:007/カジノ・ロワイヤル
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17位:グエムル 漢江の怪物
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18位:スネーク・フライト
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19位:アイ・アム(第12回大阪ヨーロッパ映画祭)
20位:トゥモロー・ワールド
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22位:シモン (第12回大阪ヨーロッパ映画祭)
23位:アサルト13 要塞警察
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24位:カポーティ
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26位:オリバー・ツイスト
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27位:カーズ
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28位:闇を走れ(第12回大阪ヨーロッパ映画祭)
29位:ジャーヘッド
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30位:マイアミ・バイス
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<寸評>
本年も傑作が多く、何をベストテンに残すかを悩んだ。ベストを何にするか、を悩んだが本年でもっとも印象に残った「ミュンヘン」を選んだ。私は熱心なスピルバーグファンではないので、おそらく彼の作品をベストに選ぶのはこれが最初で最後のような気がする。強いて選ぶなら、、という感じで1位から3位まではほぼ横一線です。
11位から20位も傑作が並んだ。京都映画祭で上映された「幻影」はドイツ映画であるが、一般公開されないのがもったいないぐらいの傑作であった。アメリカ人の野球への愛をコメディに描いた「2番目のキス」もよい。ファレリー兄弟もいよいよ復調の予感。子供が生まれないという絶望的な近未来を直球で描いた「トゥモロー・ワールド」も邦題はスカだが、多くの人に見てもらいたい傑作であった。本年は韓国映画をあまり見なかったのでランキング入りは「グエムル 漢江の怪物」と「トンマッコルへようこそ」のみ。二本ともよい作品であったが、ここ2,3年ほどの韓国映画ほどのパワーは感じられなかった。見る側が慣れたのか、パワーが徐々に落ちてきたのか。。「グエムル」はまた機会を見つけて見る予定。
21位から30位までは傑作と言うまでもないが、まあ良作という作品を並べた。毎年、ドキドキしながら見ていたピクサーの「カーズ」は悪くないと思うが、そんなに面白くなかったのでこの順位になった。「カポーティ」「ブラックダリア」も期待通りという感じであまり驚きはなかった。「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」大阪ヨーロッパ映画祭で見た「シモン」「闇を走れ」はもう一度見たい作品である。「ジャーヘッド」と「マイアミ・バイス」はおまけ。