迷走地図 1983年 松竹
☆迷走地図 1/12 シネ・ヌーヴォ(追悼 映画監督・野村芳太郎 さらば、映画のコンダクター)
★★★
→1974年の「無宿」以来、しばらく映画界から遠ざかっていた勝新太郎の久々の復帰作。稀代の名俳優だった勝が70年代後半以降、映画出演をめっきり減らしたのはなぜか。
それには、ケツに火がついた勝プロの事情もあったがそれ以上に勝新が使いにくい俳優になっていたのも大きかった。以前、大映の名カメラマンで勝プロにも参加していた森田富士夫さんが言っていたのだが勝プロがダメになったのは勝が製作に口を出すようになったからだったらしい。社長である勝が製作に口を出すのは当たり前だが、監督業に進出してからは現場にも口を出すようになったのだ。
1971年、「顔役」で監督を経験してから勝は演出の面白さにとりつかれて、夢中になった。大映のスタッフは一流である。一流であるが故にプライドもある。一人、また一人と優秀なスタッフが彼の元から離れていった。それが勝新を映画から遠ざけた原因になった。
勝は1989年に勝プロを再起させ、最後の「座頭市」を作りますが自らがメガホンを握っている。「俺が一番映画を知っている」。。そうした生き様が勝新の魅力でもあり、弱点でもあったのだ。勝プロ時代の彼は監督に無断で勝手な小芝居を始めることもあったらしい。そんな勝新を扱いきれるのは大ベテランの野村芳太郎しかいなかったのだろう。久しぶりに一人の俳優に徹した勝新は総理を狙う大物政治家を威厳たっぷりに演じていた。
ストーリーの中心は勝の妻でありながら、渡瀬恒彦と心を通わせる岩下志麻なんだが、それよりも田中角栄そっくりの風貌、しゃべり方ですごく楽しそうな伊丹十三や場をかき回す若手政治家の津川雅彦、総理の座にしがみつき、権謀術数をめぐらす芦田伸介らが織りなす政治闘争の方が抜群に面白く、特に渡瀬恒彦や寺尾聰の印象が薄い。登場人物も多く、ストーリーも複雑なのだが、さすがは映像のコンダクターと異名を取る野村芳太郎の作品。軽やかなテンポでわかりやすい大作映画になっている。
- 作者: 松本清張
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1995/06/30
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