クライング・フィスト 

■クライング・フィスト 12/10 リサイタルホール(韓国エンタテインメント映画祭2005 in 大阪)
→この日はチェ・ミンシクの舞台挨拶があった。挨拶だけでなく、質疑応答の時間もあって会場は熱気でむんむんしていた。「観客が私の演技を見てどう思うか。私は観客に何を訴えかけたいか」と明確な哲学を持ってる人で三國連太郎ばりに役者バカ(褒め言葉です)とという言葉がぴったり来る。

 役柄によって演技をコロリと変えてしまうカメレオン俳優ではなくて、自分の持ち味を生かして「自分ならこの役、どう演じるか」を練りこみ、役作りをしていくタイプの役者だと思う。その役者根性は主演であろうが、脇役であろうが映画に挑む姿勢は変わらない。

 そのチェ・ミンシクが今回演じるのは元アジア大会の銀メダリストのボクサー。事業に失敗し、住むところもないありさまでメダリストというダメダリストという有様で食うために仕方なく、街の真ん中で殴られ屋を始めてしまう。この映画にはもう一人主人公がいる。喧嘩とカツアゲの常習犯であるサンファンは遂に逮捕されて少年院に収監される。サンファンは世の中に対する怒り、鬱憤を制御できずに所内でも荒れ狂っていた。ストーリーの設定はこんな感じ
 
 サンファンを演じるのは監督リュ・スンワンの実弟であるリュ・スンボム。高校を中退後、ブラブラしているところを兄貴に誘われて映画入り。本人のキャラクターそのもののやんちゃな若者役がよく似合う。喧嘩好きだけどどこか純情な若者を気持ちよく演じた「品行ゼロ」がとてもよくて、気になってた俳優さんなんで、本作でブレイクして欲しい。この世間から見放された男たちがボクシングに生きる道を見い出していくのが本作のストーリーで別々にストーリーが進んでいく。そしてクライマックスでは二人の人生が交差するのだ。ストーリー自体はありがちでテンポも悪いがボクシングのシーンの迫力が圧巻。チェ・ミンシクリュ・スンボムも吹き替えなしで殴り合っている。リュ・スンボムはまだ若いのでいいがチェ・ミンシクはもういい年なので肋骨にひびが入ったりで大変だったらしい。

 チェ・ミンシクの存在感が素晴らしい。こんなオッサンが路上で叫んでおったらまずは無視するが、社会から完全にはみ出した男が徐々に路上で市民権を得ていく様をドキュメンタリータッチで描き出す工夫が面白い。しかし一番よかったのはラスト。リュ・スンボムの号泣が心を打った。この号泣は演技ではないと思う。彼は本当にサンファンに同化して本心から泣いているのだ。このシーンだけでもこの映画を見る価値はある。脇役も光る。人生の全てをチェ・ミンシクにかけるイム・ウォニ(「シルミド」で女を襲って処刑された男)、リュ・スンボムのコーチであるピョン・ヒボン(「吠える犬は噛まない」の犬を食う警備員)、どこまでも追ってくる借金取りのオ・ダルス(「オールドボーイ」で歯を抜かれた人)も面白い。刑事役でチラリと「オールドボーイ」でボディガードを演じたキム・ビョンオクまで出ており、名脇役が勢ぞろいである。これでイ・ムンシクが出てたら完璧だったな。

品行ゼロ インターナショナル・ヴァージョン [DVD]

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