【岡本喜八】ジャズ大名〜イエーイ！！！〜 - ほぼ日本映画専門サイト「キネマの星座」

jazz

　今日は４月２９日にみなみ会館で行われた岡本喜八ナイトから「ジャズ大名」。私が岡本喜八の作品の中で一番好きな作品です。前作「近頃、何故かチャールストン」から５年ぶりの１９８６年に撮られた作品で大映のプロデューサーの持ち込み企画です。原作は筒井康隆の３７ページほどの短編。これをどういう映画にしたかって言うと。。。

　時は幕末。世は乱れ、倒幕派と佐幕派の戦が続いていた。世には厭世観が蔓延し、一家心中事件が頻発していた。その一方で「ええじゃないか」と踊り狂う民衆の姿もあったのだ。そんな民衆を城から眺めていたのは駿河の小藩の殿様（古谷一行）。天下大事にはまったく興味がないが、好奇心が強くて音楽を愛するグレイトな殿様。名古屋から養子にやってきてからはおもろない毎日で、今日も公務をそっちのけで篳篥（ひちりき）を吹いていました。ある日、倒幕派から使者がやってきます。いよいよ立場を明確にせねばならんか、としっかり者の家老（財津一郎）に連れられて嫌々、使者に出会います。が、ここらは道が悪いので、東に向かう際の近道に城の中を通行させて欲しいとのこと。勝手に通ってくれ、とばかりに倒幕派にも佐幕派にも通行を許可してしまいます。

　一隻の小船が領内に流れ着いた。乗っていたのは三人の黒人。彼らは奴隷解放宣言後に生まれ故郷のアフリカを目指して船に乗り込んだのですが嵐のために遭難。小船に乗って命からがら流れ着いたのだった。家老はこっそりと処分しようとしますが、好奇心豊かな殿様はそれを許しません。人目にたたぬようにこっそりと地下の座敷牢に移して、彼らと面会します。彼らはジャズのミュージシャンで後生大事に楽器を抱いていました。通訳の鈴川（本田博太郎）を通じて殿様と意気投合した彼らは、病死した仲間が持っていたクラリネットを殿様にプレゼントします。篳篥の要領で殿様はクラリネットを吹き始める。城を挙げてのジャズセッションが始まろうとしていた。

　ストーリーは単純ですし、後半はもうジャズセッションやってるだけの映画なんですが何とも面白いし、楽しい映画。全編に渡って岡本喜八らしいケレン味と遊び心が生きている。リンカーンがあごひげを生やすきっかけになった少女からの手紙、有名な話ですな。それに「前略　リンカーン様　（中略）あなたはお髭が似合うと思います。（中略）あらあらかしこ」と訳をつけてしまう。黒人たちの吹き替えに東北弁をあてて、「おらたち、アフリカに帰るべえよ」と言わせてしまう。岡本作品には「結婚のすべて」の頃から出ているミッキーカーチスがメキシコの商人役。昼寝の好きな酋長役をやってるのはなんと監督自身。西部劇に出演するのは監督の夢で大変にお喜びだったそうです。ここのテンポが流れるように進んでいて素晴らしいのだ。撮影はもちろん海外のわけなくて、浜松。全体で正味２５日の撮影で９５分の映画に１０００カットもかけたらしい。プログラムピクチャアの監督としての職人芸が生かされた見事な佳作になっています。

　城が現在で言うと東名高速道路のあるところという設定で天下の往来の要になっています。殿様にその気があるのなら倒幕派と佐幕派かの立場を明確にして自分を売り出すことも可能なんですが、そんなことには全く興味を示さずに地下でジャズやってる。岡本喜八監督はそこに「戦争にかまけるより、ジャズにかまけてた方がはるかにマシである」という自分の思いをこめています。財津一郎が演奏を一旦止めて、地上で戦争が終わって明治の世の中になったことを確認する。その後、「ワンッツースリー」と声をかけるシーンが象徴的ですな。

　圧巻はやはり後半のジャズセッション。びわ、三味線、太鼓は言うに及ばず、木魚にサメの歯、たらいと何でもかんでも使って各人が自由に音楽を奏でる。琴をおしとやかに弾いていた女中たちはやがて琴を立てて弾きだして「あへー」とイッテしまう。そこに「ええじゃないか」が乱入して大騒ぎになる。。エキストラを大量に投入して賑やかに見せ場を作っています。とても楽しい。キャストではやはり本田博太郎の「アーハー？」に殿山泰司の「イエーイ」に監督の愛娘、岡本真実*1のそろばんスケボーが笑えた。財津一郎はわがままな殿様に振り回される家老で「はい？」と怪訝な顔で映画の中で唯一まともな人を演じています。古谷一行も大真面目にどこかひょうきんな感じで役を楽しんでるのがよくわかる。

　頭が空っぽになれる、楽しい作品を見たい人にはオススメ。オールナイトでも一番笑い声が響いてた映画でした。

スタッフ：監督：岡本喜八　製作：小林正夫、原作：筒井康隆、脚本：岡本喜八、石堂淑朗　企画：鈴木良紀、撮影：加藤雄大、音楽：筒井康隆、山下洋輔　美術：竹中和雄
キャスト：古谷一行、財津一郎、神崎愛、岡本真実、殿山泰司、本田博太郎、今福将雄、小川真司、利重剛、ミッキー・カーチス、唐十郎、六平直政、細野晴臣、山下洋輔、タモリ、岡本喜八