復讐者に憐れみを〜復讐の彼方に待つものは何?〜

 今日、紹介するのは韓国映画の「復讐者に憐れみを」。監督は「オールドボーイ」でカンヌのグランプリを受賞したパク・チャヌク。大の映画好きで若い頃から映画評論家、映画雑誌編集者として映画の仕事に携わり、2000年に国策映画「JSA」で大ヒットをたたき出します。本作は2002年に撮られた作品で同年の東京国際映画祭のクロージングを飾った作品でしたが、日本で上映が決まったのは「オールドボーイ」公開後になりました。

 作品を見ればわかるのですが、この作品は問題作です。一般ロードショー公開が延期になったのもわかる。本作、「オールドボーイ」そして現在製作中の「親切なクムジャさん」(仮題)はいずれも復讐がテーマにされた作品で復讐三部作と呼ばれるらしい。大林宣彦尾道三部作とはえらい違いだ。はっきり言って私もこの作品はあまり好きではありません。悪趣味と思えるほどの残酷シーン、グロテスクシーンが満載で見るに耐えないのです。が、それで切り捨てられる作品でもないのです。

 聾唖の工員、リュ(シン・ハギュン)は両親もなく、姉とスラム街で暮していた。姉は絵の才能があったリュを美大に進学させるために工場で働いていたが腎臓の病気にかかって今は療養している。リュは美大をあきらめ、工場で働いていた。

 彼はラジオ局に姉への思いを綴った手紙を出す。喋れない自分に代わってパーソナリティにその手紙を読んでもらおうと思ったのだ。腎臓移植が必要な姉に彼は自分の片方の腎臓を提供しようと決意したのだ。だが、彼の腎臓は不適合だった。さらに彼は工場から解雇される。姉の看病のために欠勤したことがその原因だった。退職金は一千万ウォン。

 金があっても姉を救うことはできない。彼は藁をもすがる思いでチラシに載っていた臓器売買の売人と取引しようとする。そんな売人がまともな奴なわけがない。彼は自分の腎臓を取られ、一千万ウォンを奪われる。運命は皮肉であり、なんと姉の腎臓にぴったりのドナーが現れる。「費用は一千万ウォンだ。手術は来週だ」と微笑む医者の前でリュは力なく微笑んだ。

 「これはいい誘拐なのよ」とリュの恋人で無政府主義者のヨンミ(ペ・ドゥナ)は彼を励ました。小さな町工場のパク社長(ソン・ガンホ)の娘のユソンを誘拐した。(韓国では誘拐事件がとても多い)娘は母親がおらず、父が多忙で人に預けられることが多かったためか彼らに簡単になついた。娘を何よりも愛しているパク社長は彼らを信じ、金を出した。「いい誘拐」は何事も起こらずに終わろうとしていたが。。

 映画は無機質な感じで淡々と進みます。主人公の住む殺風景なアパートに人間味を感じられない工場などが印象的なのですが、画面全体にどんよりとした雰囲気が漂っています。不幸、災難のドミノ倒し。繰り返されるグロテスクなシーン、目を覆いたくなる拷問シーンの末の衝撃のラスト。情け容赦なく、一切の救いもなくて血が流れて死んでいく。拷問や殺害のシーンがすごくリアルで厭。(しかも実用的)これほど気分が悪くなる映画はないのだが、おそろしく心が冷え切った中でいっぺんの救いであったのはリュとヨンミの関係であろう。エレベーターの中でリュが冷たくなったヨンミの手を握るシーンが切ない。

 ヨンミを演じたのは「子猫をお願い」のペ・ドゥナ。ヨンミはリュを犯罪にいざなっていく、とんでもない女なんだがどこかはねっかえりのお転婆に見えて憎めない。(実はそれがラストにつながってる)いい誘拐と悪い誘拐について熱弁する姿とか咥えタバコ(彼女はタバコを吸う役柄が多いなあ)で反政府ビラを配るシーンもどこか微笑ましい。これは彼女の魅力でしょう。小ぶりの乳房を揺らしながら、激しく騎上位でセックスするシーンがあり。韓国の女優さんは惜しげなく脱ぐねえ。日本も見習え!河原で出会う脳性まひの青年を演じていたのは「品行ゼロ」のリュ・スンボム。よくもまあこんな役をやったもんだ。

 復讐をテーマにした小説や映画は東洋西洋を問わずに山ほどあります。西洋に「ロミオとジュリエット」「ハムレット」がありますし、日本でも曾我兄弟や忠臣蔵などがありますな。「このうらみ、はらさでおくべきか」「この恩は生涯忘れません。いつかお返しします」この報復と報恩というものは人間の本性なのでしょう。しかし、報恩はともかくとしても報復、復讐ほど不経済で後ろ向きな行為はありません。敵を取ったとしてもその人が生き返ってくるわけでもありませんしね。ブラジルの「ビハインド・ザ・サン」は復讐の連鎖で傷つけあっていく二つの一族を描いていますが、およそその姿は悲惨そのものです。「復讐者に憐れみを」のリュは姉を救うために様々な努力を続けます。が、運命の悪戯というか、考えが甘いというか、だんだん窮地に追い込まれていきます。窮地に追い込まれ、彼は復讐に憑かれていく。しかしその彼も、復讐の対象になっていたのだ。復讐はとても後ろ向きで、しかも終わりがない。

 「オールドボーイ」は15年間も監禁された男が犯人を捜していく話です。従来の復讐物と違うのは犯人はあっさりと見つかり、なぜ彼を閉じ込めたのかを知るために彼は戦っていくことになるのだ。この映画での復讐は後ろ向きと言うより、「生きる意味」とすら扱われ、「復讐は体にいい」という言葉まで出てきます。そして「復讐を生きる意味にした者が復讐を果たしたあとにどう生きていくか」までもが盛りこまれています。「復讐者に憐れみを」と対照的なのも面白い。次回作で復讐をどう扱うのか、ひそかに楽しみである。

監督:パク・チャヌク 脚本:イ・ジョンヨン、イ・ジェスン、パク・リダメ 撮影:キム・ビョンイル
キャスト:ソン・ガンホ、シン・ハギュン、ペ・ドゥナ、リ・スンボム、イム・ジウン、キ・ジュポン、イ・デヨン