にっぽんぱらだいす

tetorapot2004-12-27


 今日紹介するのは現在、シネ・ヌーヴォでやってる「社会派コメディの変遷 渋谷実前田陽一」から前田陽一のデビュー作である「にっぽんぱらだいす」。売春防止法施行直前の赤線の物語です。赤線って何?のよい子ちゃんはお父さんに聞きましょう。昔はね、遊び場所が公然とあったんだよ。遊ぶって何して遊ぶ?のよい子ちゃ(以下略)

 舞台は赤線地帯のハレムという売春宿。主人である蔵本大典(加東大介)は終戦直後の進駐軍を相手にした商売で大儲けをして、桜原に帰って来ていた。店は大繁盛で毎日、相当なお客が来ていた。一人息子の希典(長門裕之)が戦地から帰ってきた。彼は父親の商売を嫌っており、自分が妹のように可愛がっていた光子(香山美子)までもを娼婦にしようとしていることに腹を立て、家を出てしまう。

 芸者には水揚げという風習がある。大金をはたいて、彼女を芸者にする旦那がいるのだ。光子の旦那になったのは田舎の成金、紀伊国屋益田喜頓)であった。彼は光子を「神様」と呼んで、彼女をとても大切にした。当初は娼婦に戸惑いを感じていた光子だったが、商売が水にあったのか、彼女はめきめきと売れっ子になっていく。やがて彼女は紀伊国屋の老妻公認の二号さんとなって店を去っていく。

 さて一方、ハレムでははるみ(ホキ徳田)が中心となって組合が作られて妓楼の主人達に対して条件闘争を行なっていた。卒論の取材の為に売春宿に飛び込んだ女子大生千恵子(加賀まりこ)を巻き込んで組合運動は大きくなっていく。しかし一方、世間では女性議員の呼びかけで売春防止法が成立しようとしていた。桜原の業者は蔵本を旗頭に反対運動を行なうが、遂に昭和31年5月24日に売春防止法は成立。すべての赤線業者は二年の猶予期間を経て、廃業すべし。蔵本は怒りから発した熱で発作を起こし、帰らぬ人となった。

 「二年後になくなる商売だ。この仕事はいわば敗戦処理内閣だ。息子のあんたがやらなくてどうする」と説得されて息子の希典が後を継いだ。彼は前借をチャラしたり、娼婦の取り分を多くするなどの改善を行なった。彼が主人になると同時に光子が帰ってきた。幸せに暮らしていた彼女だったが、親族の反対にあって家を追い出されてしまったのだ。あと少しの寿命とは言え、桜原は今日も賑やかだった。そして昭和33年3月31日に赤線は最後の日を迎える。

 前田監督は58年に松竹大船に入社。一期上にいたのが大島渚吉田喜重の所謂、松竹ヌーヴェルバーグ。彼もその波に乗りますが、その終着点は松竹の大先輩である渋谷実でありました。

 渋谷実は戦前から松竹の監督。ずっと大船調と呼ばれるメロドラマを撮っていましたがライバルの木下惠介に刺激されて一念発起。世相を織り交ぜた群像喜劇で「自由学校」「本日休診」「現代人」を撮ります。松竹と言えば一に小津で二が木下で松竹に詳しくない私にはわかりませんが、数年前に何気なく見たのが渋谷実の「本日休診」。彩り鮮やかに登場人物に取り混ぜ、テンポよくコメディをまじえて物語を進めていく。様々なエピソードを織り交ぜて敗戦直後の貧しい状況の中でたくましく暮らしている人々を描いています。渋谷監督は松竹では亜流で最も評価が遅れている監督の一人でもっと評価されてもいいと思う。

 本作「にっぽんぱらだいす」は前田監督のオリジナル脚本の映画化ですが、「本日休診」と同じように様々な登場人物が出てきてテンポよくストーリーを進めていく。威勢のいいマーチも心地いい。前田監督はこの後、喜劇の中心にして「ちんころ海女っこ」「スチャラカ社員」「喜劇・命のお値段」などの傑作を生みだし、「神様のくれた赤ん坊」で名監督と呼ばれるようになります。松竹が駄目になってからはテレビでも活躍。片岡鶴太郎主演の「昭和の説教強盗」というテレビドラマが印象に残っています。1998年、「新・唐獅子株式会社」の撮影中に亡くなります。

 やかましくてわがままながら生きる意欲に溢れた娼婦たちがあっけらかんと描かれています。赤線が消えて、赤線と共に生きた光子が死を選ぶ中、娼婦たちは賑やかに新天地に飛び立っていきます。対照的に「神様」だった光子は赤線と共に消えてしまう。人間、どこでだって生きていけるんだ。人間の生命力を感じさせるラストになっています。光子に憧れていつまでも彼女を待ち続けると誓った学生が他の娼婦とデキてしまうというオチもしょうがねえなあ、と呆れながらもクスクス笑ってしまう。人間なんてそんなもん。っんとにしょうがねえ。

 組合運動のトップになった女性を演じるホキ徳田が大変に素晴らしい。。。ブサイクやけどな。嫌がっていた仕事を引き継いだ長門裕之。夢に破れて仕方なく始めた商売だったが水にあったか、商売を切り盛りしていきます。妻に「ばかだなあ。。おまえは」とさもおかしげに笑うシーンが傑作。加賀まりこはちょっぴりだけの出演。特別出演の菅原文太は売春宿に乗り込んで金をせびる似非右翼。売春防止法に賛成する学者に菅原通済が出ています。

監督、脚本:前田陽一 助監督:三村晴彦 撮影:竹村博 音楽:山本直純
キャスト:香山美子ホキ徳田長門裕之加東大介、中村雅子、益田喜頓浦辺粂子、柳沢真一、加賀まりこ勝呂誉岸輝子、上田吉二郎、菅井一郎、 長門勇、早川保、菅原文太菅原通済