ディパーテッド 

ディパーテッド 1/21 TOHOシネマズ高槻スクリーン4
★★★
正直、本作がアカデミー作品賞と聞いた時は驚いたWOWOWの事前予想でも混戦模様で「おそらく。。『バベル』?」みたいな感じで本作も実は最有力候補だったので十分ありえる話だったのだが、なんとなく「ディパーテッドはないだろう。。」と思ったのはやはり頭のどこかに「オリジナルに比べると数段落ちるリメイクである」本作が取るはずがないだろう。。と。「バベル」も結局、無冠だったわけですね。昨年の「クラッシュ」と同じ他民族の群像劇だったから票が集まらなかったのかな。

 昨年は明らかに「ブロークバック・マウンテン」に取らせたくない、言わば73年のキネマ旬報ベストテンで「仁義なき戦い」にベストを取らせるものか、と「津軽じょんがら節」に東映大嫌いな評論家が票を結集したようなもんで(後に石井輝男を名指しで批判した佐藤忠男あたりが中心人物と思いきや、佐藤さんは「仁義なき戦い」を3位に挙げ、「じょんがら節」には得点なし。山田和夫以下代々木系映画評論家は「戦争と人間」に全精力を投入。大して面白くない作品を10位に押し上げている。なお、「仁義なき戦い」に満点入れたのは小野耕世黒井和男品田雄吉白井佳夫滝沢一竹中労田山力哉南俊子、南博、山田宏一 えらいぞ!)ああいうことは二度としたくない、と皆思ったのかもしれません。

 それ以上にマーティン・スコセッシに取らせたいと皆思ったのか。大体、作品賞と監督賞はこれ一緒に取らないと無意味ですからね。うちの弟曰く、スコセッシが評論家に「今回、賞くれへんかったら、眉毛そるぞ!」と脅したんじゃないか、と。あの眉毛そったら、もう誰かわからんもんな。。

 皆さん、ご存知のように本作は香港映画の「インファナル・アフェア」のリメイク。香港では大ヒットを記録して、続けて2と3が作られた。私が一番好きなのは「インファナル・アフェア2 無間序曲」。物語は過去にさかのぼり、若き日の二人を描く。「ゴッドファーザー2」のなぞりではあるが、あえてスターのトニー・レオンアンディ・ラウを使わずにノンスターで作り上げた。人間関係のドラマを丁寧に描き、メリハリをきっちりつけた傑作である。派手なアクションはないが、ストーリーの起伏だけで充分に観客を引きずりこむ。特に一介の幹部から大ボスにまで成り上がるサムの描き方が素晴らしい。「インファナル・アフェア3 終極無限」は一人残ったアンディ・ラウが自壊していく様を描いた作品であんまり面白無かった。登場人物が次々に登場し、そいつらの正体がさっぱりわからない様はなかなか面白かったが、欲張ってか「1」で死んだはずのトニー・レオンを出演させるために回想シーンを幾度かはさんでそれがストーリーをわかりにくくさせていた。レオン・ライはよかったんだけどねえ。。

 「ディパーテッド」は1のリメイク。最後まで見た人ならわかるだろうが、2と3が作られることはまずない。マフィアのボス、リメイクではジャック・ニコルソンが演じたキャラクターがオリジナルとは全く違うし、「2」のストーリーも少し使ってるのでまるでないだろう。

 見終わった感想は「インファナル・アフェア」がマフィア映画になるとこんなに暴力的な映画になるのか、と。オリジナルでは切迫した状況が次々と飛び出してくるようなスリリングでそしてスタイリッシュなアクション映画であるが、リメイクでは恐ろしく暴力的なマフィアの映画になっている。

 マーティン・シーンの死に様が特に端的なんだが、オリジナルでは突然の上司の死に呆然となるトニー・レオン。しかしキョンの声ではっと正気に返る。。上司が死んだことがアクセントになるわけだが、リメイクでは如何に惨たらしくクイーナンが殺されたかが強調され、ビリーはただ逃げるだけ、みたいな感じなんである。オリジナルと全く一緒に撮っても仕方ない。リメイクとは言え、監督の色が必要だ。まあそこがスコセッシ風味と言えば充分すぎるほどそうなんだろうけど。正直、辟易したとこそっと書いておこう。

 なんか東映のヤクザ映画のリメイクみたいである。深作欣二が1975年ぐらいに笠原和夫の脚本で松方弘樹主演で撮った「日本公安警察 潜入」(岡田茂なら「公安対組織暴力」とかつけそうだ深作欣二の「県警対組織暴力」は岡田茂が便所で思いついた題名で脚本を書く前から題名が決まっていた。当時の東映岡田茂が題名を考えており中島貞夫はそれが厭で自分がつけた題名の「鉄砲玉の美学」をATGで撮ったらしい)のリメイクと最もらしく書いとけば信じるナウなヤングもいるかもしれません。ええ、実はそうなんですよ!と最もらしく書いておく。

 嘘ついでにキャスト表も書いておこう。あ、名前は「ディパーテッド」にあわせたが実際はビリーは黒木哲夫だしな

ビリー:松方弘樹
コリン:北大路欣也
クイーナン:小沢栄太郎
ディグナム:室田日出男
エラービー:渡辺文雄
フランク・コステロ丹波哲郎
マドリン:渚まゆみ
ミスター・フレンチ:内田良平

それから広島県警の刑事で成田三樹夫、組織のチンピラに川谷拓三。それからおっぱい見せ要員に渡辺やよいひし美ゆり子が出てくる。成田の死に様は男泣き必死である。。何を最もらしく。。

うおお!!!超見てえ!!小沢栄太郎のクイーナンなどオリジナルより絶対によさげだ!


 キャストではやはりレオナルド・ディカプリオがいい。犯罪に近い地域で育った故に犯罪を憎む。しかし組織はその熱意を利用した。「もう一度、その目を見せろ」とクイーナンに言われ、ギラリと目を輝かすシーンが抜群にいい。酒場でクランベリージュースを飲んでいるところをマフィアに「クランベリーには利便効果があるんだ。おまえ生理か?」とからかわれて、ぶち切れる。酒を飲めないキャラクターにしたのは、酒で晴らせない鬱憤が暴力という形で現れる。それが彼がカウンセリングに通うきっかけになる。実はこの潜入捜査官をカウンセリングに通わせるって設定はどうなのよ、と思わんでもないが、ディカプリオのずっと何かに耐え続ける必死な顔でそこそこの説得力になっている。そのディカプリオを精神的に追い込んで、ほとんど腕ずくで潜入捜査官に仕立て上げたのがディグナム。これをマーク・ウォールバーグ が演じる。匂ってきそうなほど、男くさい。叩き上げの刑事って感じがよく出ていた。主演もできる俳優であるが、この人は脇役でもいい演技をするクリスチャン・スレーターの系譜にある人だな。経歴もワルだしな。

 だめだったのがジャック・ニコルソン。私は彼のファンで彼の出演作品はほぼ全部見ているが、今回はちと悪ふざけがすぎる。人間くさいマフィアのボスを演じようとしているのだろうが、あれではただの気がふれたオッサンである。意外であるが、マフィアをやったことはあまりない。マフィアみたいな役柄はよくあるんだが、マフィアそのものと言うとあまり思いつかない。「ホッファ」も組合の親分だしな。。スコーセッシと組むのも初めてなんだよな。ジャックが得意なのは、暴力的でもセクシーな男。女にモテる。「タクシードライバー」ではなかったのだ。ロバート・デ・ニーロなんである。ジャックが意識的にああいう演技をやったのはデニーロと全く違うマフィアをやりたかったからなんだろう。かっこいいと言うより、にじみ出るような人間臭さでファミリーを築いていく親方的なマフィアを。でも。。電動コケシはなあ。。それから太りすぎだ。あの巨体で女を侍らしててもモテるというより下品なオッサンにしか見えん。

 授賞式でのスコセッシは冷静を装っていたが、かなり興奮していたことがわかった。早口はいつものことだが、目にうっすらと涙が浮かんでた。やっぱり嬉しかったんだろう。そういう意味では取らせてよかったと思うけど、俺はどうせなら「アビエイター」で取らせて挙げたかったな。

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