さらば、近鉄京都

 中学の頃から電車通学だった私のひそかな趣味は寄り道であった。中学生の時の私の寄り道スポットは京都駅。団体待合室で友人と漫画を読んで時間をつぶしたり、一人の時は京都駅前観光デパートをぶらぶら。京都の観光名所を案内する模型で遊んだり、観光地案内ビデオを見たり、はたから見ると近隣から観光に来た中学生であったろう。ひそかな楽しみが当時、2階にあったオーディオコーナー。落語のテープがずらりと並んでいて見ているだけで楽しかった。中学生の頃、小遣いをためて桂枝雀桂米朝のテープを買いに行ったのはひそかな楽しみであった。中学生も長じると寄り道先はアバンティのブックセンター。毎日のように漫画を読んで帰った。これが90年代の初頭のお話である。アバンティの本屋も現在はあるが、汚い団体待合室と古い観光デパートは今やもうない。

 高校生。アルバイトをするようになり、小金がたまった。寄り道先は四条河原町になった。友人と出来もしないのにゲーセンをブラブラ。最後は京都朝日会館、ここの3階に映画館があるのを知るのはここから数年後になる、当時は2階にある駸々堂書店の漫画専門店。ここで漫画を立ち読みして帰った。ここでは随分、漫画を買った。映画館の京都宝塚の隣にあった駸々堂書店。ここもよく利用した。高校生の頃、漫画も本もここで駸々堂であった。随分、いろんな本を買ったもんだ。後年、駸々堂は倒産。漫画専門店はなくなり、書店は他の本屋になった。以降もよく通っていたが、昨年の冬に無くなった。朝日会館の3階にあった映画館、京都朝日シネマ。大学時代、ここには随分通った。ここも今はない

 近鉄百貨店京都店が今日で閉店した。2005年の夏にはこの日が閉店するとわかっていたし、派手な閉店セールもあったので、遂にその日を迎えたというだけのことなんだが、やはりさびしい。本日も訪れてきたが大変な人出であった。私がよく行くようになったのは所謂、プラッツ近鉄になってから。百貨店と言うより専門店街みたいなソフマップあり、旭屋書店あり、無印良品あり、GAPあり、という何でもありの店になってから。その姿が百貨店かどうかは大いに疑問ではあったが、そのらしくなさが寄り道しやすい雰囲気であった。本見て、服見て、文具見て、地下に土産買って、みたいな気軽さがあった。特に仕事をやめて京都駅前の専門学校で勉強しとった頃、帰りに旭屋書店に立ち寄るのが生き抜きであった。長じてからの専らの寄り道スポットであった。

 町が変わる。人が動いている限り、町もまた動く。古い店が無くなり、新しい店ができる。それはわずか20数年生きていても充分に感じる。私が中学、高校時代に慣れ親しんだものも随分無くなった。丸善も無くなった。もちろん、残るものは残る。アバンティブックセンターは今でも健在だというのはある意味すごい。私の中学時代から、ほとんど店の雰囲気変わっておらん。旭屋書店が来た時、つぶれるかと思ったが見事に残った。つぶれるのはやはりニーズがなくなってきたからなんだろう。近鉄百貨店の跡地にできるヨドバシカメラ。繁華街にある電気街がかなり衰退している京都にとって、ヨドバシの出現はかなり画期的である。出来たらきっと足しげく通うようになると思う。

 が、一抹の寂しさは残る。寄り道の楽しさ。それは町の中に自分のお気に入りを見つけることである。そしてそれが自分の居場所となり、その人にとって、その町の色になる。近鉄百貨店京都店は私にとってそんな場所であった。さらば、近鉄京都。