太陽

▲太陽 10/7 京都シネマ
★★
→非常に感想が書きにくい作品である。つまらない作品ではないが、さほど面白い作品ではない。正直なところ、監督は何を思ってこの作品を作ったのかがよくわからない。さらにロシアの人が作った昭和天皇の映画を日本人が見て何を学べばいいのか、などと思ってしまう。作品以上に作品を取り巻く状況の方が面白くて、それだけでおなかいっぱいになってしまった感がある。

 「太陽」の宣伝プロデューサー越川道夫が「天皇を扱ったことが既に事件なんだから入らないわけがない」と語っているがまさにそうで観客にしてみたら公開されたことが事件で、それを見に行った時点で既に事件の渦中にいるのである。感想など二の次なのかもしれない。大方の予想を裏切って劇場は東銀座駅前シネマことシネパトス銀座!そしてさらに劇場の記録を塗り替えてしまうほどの大ヒットとなった。私は京都シネマの初日に足を運んだが、ほぼ満員(京都シネマは最近、休日は常に満員でございますが。。)であった。でも満員にはならなかったのは、やはり都内一館公開と違って関西はナナゲイ京都シネマで二館公開となったからやろか。

 映画は終戦を決める御前会議の朝から始まる。まさに「日本のいちばん長い日」とスタートは一緒なんだが描かれるものは全く違う。それは昭和天皇にとってはいつもと何ら変わらない窮屈な一日であったのだ。戦争は終わっても下界の騒々しさは無関係に”現人神”の生活は続く。落ち着いた色感の映像で映画のテンポはスローにのろのろと進んでいく。あたかも、昭和天皇の毎日のように。

 予備知識が無くても楽しめる映画ではあるが、時間に余裕のある方は半藤一利氏の「日本のいちばん長い日」(発刊当時は大宅壮一著となっていたが、書いたのは半藤さん)「昭和史 戦後編」をお読みいただきたい。当時の天皇を取り巻く状況が実にわかる。敗戦直後、戦勝国の間では天皇を戦犯として裁くべきだという意見がかなり強かった。オーストラリアなんてかなり頑強に主張したし、アメリカの世論も天皇を裁くべきとの意見が強かった。

 それが、あの戦争が「天皇陛下の周りにいた首相のトージョーが独断で起こした戦争」となったのはマッカーサーの大統領への報告が大きかった。曰く、「ヒロヒトは平和主義者である。戦争は彼の意思によるものではなかった」そして「彼を処刑すると日本国民は死ぬまであなたを許さないでしょう」と日本国民が天皇を如何に尊敬しているかを伝えた。マッカーサー天皇を戦犯にするかどうかで悩んだ。それと言うのもやはりあの戦争は彼の名の下で行われた戦争であったからだ。だからこそ実際に会って印象を確かめたのであろう。映画で描かれたようなことは本当にあったのだろう。

 イッセー尾形の演技がすごい。所謂ニュース映像で見る昭和天皇の「あ、そう」という口癖、口をもごもごさせる癖などを見事に再現している。ただ。。はっきり言うとやりすぎだとは思った。私にとってイッセー尾形はなじみが深い役者さんである。ガキの頃から好きだった。

 小学生の頃、志村けんが大好きで彼のコント番組は毎週見ていた。コントにはたまにゲストが出ていて、時々出ていた七三分けでめがねをかけたオッサンが大のお気に入りだった。そのオッサンは他のコント番組にも時々出ていたし、「意地悪ばあさん」にも出ていた。そのオッサンの名前を知ったのは中学生になって見たシリーズ後期の「男はつらいよ」のキャスト表だった。今でもはっきり内容を思い出せるコントを志村けんと絶妙な息で繰り広げて小学生だった私を夢中にさせたそのオッサンこそがイッセー尾形という役者であった。

 イッセーさんが相席になった志村のトンカツを彼がいない隙をねらってこっそり食べようとしているところに志村が帰ってくる。呆然としている志村に頬張ったとんかつをペッと皿に吐き出して「おみやげ」って返してしまう。。そんなコントであった。こうして文字で書くと見事につまらんが、当時買ったばかりのビデオで何回も繰り返して見てその度にバカ笑いしておったので(今でもだが私には唐突にバカ笑いする癖がある。悪癖なのは思い出し笑いでもそれをやってしまうところだ)、両親は本気で「少しおかしいのではないか」と疑っておったらしい。どうでもいい話なんだが、イッセー尾形には幼少時代にそうした狂おしい記憶がある。

 映像はくすんだ色合いで美しい。全体的に薄い茶色がかかってるような雰囲気である。特に彼が地上に出て研究に没頭するシーンが美しい。日光が透明にキラキラ輝いており、防空壕から出た彼がこの時間を如何に大切にしているか、至福の時間であるかがよくわかる。空襲のシーンで飛んでいる飛行機、落とされる爆弾がいつしか魚になっている工夫もよかった。

映画『太陽』オフィシャルブック

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アレクサンドル・ソクーロフ

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日本のいちばん長い日 決定版 (文春文庫)

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昭和史 〈戦後篇〉 1945-1989

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